顧客視点の働き方改革伊藤忠商事が朝型勤務で得た真の成果とは

連載:働き方フロンティア 【第5回】

顧客視点の働き方改革
伊藤忠商事が朝型勤務で得た真の成果とは

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働きやすい会社が
ゴールではない

アデコ:多くの企業では、手段であるはずの働き方改革がいつの間にか目的になってしまっている傾向があります。朝型勤務も手段の一つですが、それが目的になってしまう危険性はありませんか。

西川:なかったわけではありません。この数年、夜に働いている社員の数を減らし、早朝に出勤する社員の数を増やすことを各現場の目標にしてきました。業務を効率化し、生産性の高い組織を実現するという大きな目標のために、朝型勤務で一つのゴールを設定したわけです。しかし、それは必要なプロセスだったと思います。改革には必ずリバウンドがあります。ある程度進んだところで揺り戻しがあって、改革が逆戻りしてしまうケースです。リバウンドが起こらないところまで改革を浸透させ、定着させるためには「仮のゴール」を目指すことも必要だと思います。

アデコ:朝型勤務で仮のゴールを達成したとして、次の目標、課題はどういったことでしょうか。

西川:先ほど他商社との社員数の比較についてお話ししましたが、最少人数で最大成果を発揮する戦略において、社員の健康は大前提となり、当社では健康経営も働き方改革の重要施策の一つとして推進しています。自分の健康を自分自身でコントロールして、常にフレッシュな状態で仕事に向かうことは、ビジネスパーソンの責任です。会社がそれを支援するアプリケーションやプログラムを開発し、社員が自律的に健康を管理し、一人ひとりのパフォーマンスが向上することも働き方改革の目標の一つと考えています。

アデコ:2018年4月に竣工する社員寮もそうした取り組みの一環ということになりますか。

西川:新設する社員寮は360人の若手社員が入居予定で、若いうちからタテ・ヨコ・ナナメの繋がりによる人間関係の醸成や、組織力向上を目的としていますが、同時に、若手社員の自立的な、健康管理や食事に対する意識の向上につながるよう様々な設備を整えています。健康に配慮した食事や食に関する指導、シェアキッチン付きの食堂やジム設備の活用通じて身体的な健康はもちろんですが、メンタル面での健康づくりという点にも配慮した施設を目指しています。

アデコ:朝型勤務の導入時に挙げられた人材育成面の課題に対する取り組みともいえますね。

西川:勤務時間が減っていく傾向にある中で、「どんどん働いて、どんどん経験値を高めていけ」という量に依存するのではなく、一つの経験からより多くの学びを得るといった、いわば経験の質を求めなければなりません。仕事の経験をいかに成長の糧にできるか。これまでの人材育成の考え方を変えていく必要があるでしょう。これについては、今後試行錯誤していくことになります。

 さらに、働き方を変えて生産性につなげる「次の手」も考えなければなりません。朝型勤務だけでこれ以上の生産性向上が望めるとは私たちも考えていません。さらなる業務効率化を図るにはどうすればいいか。それを現在模索しているところです。

 ただ、朝型勤務の導入を通して、働き方次第で生産性が向上するという理解が得られました。この成功体験をベースに、さらなる生産性向上への取り組みを進めていけると考えています。

アデコ:生産年齢人口が減少していく中、企業は働き手を確保するために働き方改革の必要に迫られています。今後進めていく働き方改革はこうした目的を意識したものになるでしょうか。

西川:改革には事業の状態や会社の規模によって、いろいろな目的があって、そこに向かった方法があると思います。もちろん、他社の取り組みからヒントを得ることは重要ですが、一つはっきりしているのは、当社は「働きやすい会社」を目指してはいないということです。

 仕事の進め方の自由度を高めたり、働きやすい職場環境をつくったりして、社員に喜んでもらうことが働き方改革であると当社は考えていません。会社が追求すべきは、社員に一生懸命働いてもらって、会社全体のパフォーマンスを上げていくことです。どんどん働いて、どんどん成果を上げていってほしい、ただし効率的に──。それが、会社が社員に望むことであり、働き方改革はそのプラットフォームをつくるためのものです。その結果として社員が得られるのは、「働きやすさ」ではなく「働きがい」であると考えています。

 そういう意味で当社は「厳しくとも働きがいのある会社」を目指し、働き方改革の諸施策を推進しています。

アデコ:働きやすさを追求することは、働きがいのある会社を実現する手段ということでしょうか

西川:そうです。全ての施策はその方向で考えられなければなりません。会社がどうなりたいか、どこに行きたいか、会社が成長するために社員は何をすべきか。それらを軸とすべきであって、「社員が喜ぶ」ことが軸になってはならないと思います。社員は喜んでいるが、会社の生産性は上がらない。そんな状態は本末転倒ですし、長期的に見て、そのような取り組みは社員をハッピーにはしないと私たちは考えています。

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