顧客視点の働き方改革伊藤忠商事が朝型勤務で得た真の成果とは

連載:働き方フロンティア 【第5回】

顧客視点の働き方改革
伊藤忠商事が朝型勤務で得た真の成果とは

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朝型勤務の本当の成果

アデコ:トライアル導入では大きな反発もなく進んだのでしょうか。

 

西川:やはり反発はありましたね。人事・総務部の課長クラスが、20時近くになると各フロアを回って、仕事をしている社員に「帰ってください」と声を掛けるのですが、最初の3カ月くらいは、「会社のために一生懸命やっているのに、仕事をするなとはどういうことだ」とか、「何でこんなやり方に従わなければならないんだ」と食ってかかられることもありました。現場の社員からすれば、それまで当たり前だと思っていたことがそうではなくなったわけですから、反発があるのも無理はなかったと思います。

アデコ:現在もこの制度が続いているということは、結果的としてトライアルは成功だったということですね。その要因はどこにあったと思いますか。

西川:各組織長の主体性を促す取り組みに注力したことが功を奏したと思います。「朝型勤務は残業削減運動ではない」ということは折に触れて説明していましたが、それが現場の責任を持つ人たちの腹に落ちない限り、社員全体の動きになることはない。そう考えて、全組織長が参加する説明会を20回ほど実施しました。しかし、本当の意味でうまく進み始めたのは、制度改革への理解が早かった組織長が、仕事のプロセスを見直す取り組みを独自に始めたり、部署をまたいだ改善プロジェクトを立ち上げたりといった自主的な動きを示すようになってからですね。私たちはそういった好例を見逃すことなく取り上げて、全社に伝え、自主性がより醸成される環境をつくるように努めました。部門間で認識が広がり、社員の中に少しずつ「やらされている感」がなくなったこと。それが非常に大きかったと思います。

アデコ:管理職の評価項目に社員の残業時間を入れて、意識を高めている企業もあります。そういった施策は実施しましたか。

西川:先ほども申し上げたように、朝型勤務の導入は残業削減を目的にしたものではないので、そのような評価制度は設けていません。ただ、組織長の仕事の一つとして「働き方改革の推進」という項目を明確に入れて、その取り組みがボーナス査定に加点されるという仕組みはつくりました。また、毎年、営業成績が優れている組織を表彰する優良組織認定制度においても評価項目の一つに「朝型勤務の推進度」を反映しています。

アデコ:現場の社員への具体的なインセンティブはあったのでしょうか。

西川:早朝に出勤する社員のために軽食を用意しました。最初は簡単なものでしたが、トライアル期間を過ぎてから、メニューを増やしたり、内容を充実させたりして、より魅力的に感じてもらえる工夫をしました。また、朝型勤務は全国のオフィスで一律に導入したのですが、地方の小規模なオフィスで軽食を用意するのが難しい場合は、コンビニエンスストアで買った食事をレシートで精算できる仕組みも設けました。そういったインセンティブは効果を発揮したと考えています。

 また、早朝勤務のインセンティブとして深夜勤務同様の割増賃金を支給したことも大きな効果があったと思います。

アデコ:朝型勤務の具体的な成果についてお聞かせください。

西川:夜に会社に残っている社員が減り、早朝に出社する社員が増えれば、朝型勤務が進んだことを示す一つの指標になります。数字で見ると、20時以降に退社する社員が以前は全社員の30%ほどいました。国内勤務の社員数が約2500人ですから、700人から800人くらいは20時以降もオフィスにいたということです。それが現在では約5%、120人程度まで減っています。22時以降だと、以前は1割、250人ほどが仕事をしていましたが、現在ではほぼゼロになっています。一方、朝の8時以前に出社する社員は、以前は2割ほどでしたが、現在ではほぼ5割に近づいています。

アデコ:残業削減が目的ではなかったとのことですが、結果的に残業時間も減ったのではないですか。

西川:月によってばらつきはありますが、以前と比べると10%から15%ほど減っています。年々残業時間は短くなる傾向にあります。その分、家族と過ごす時間が増えたり、勉強する時間を捻出できたりするようになったことも、この取り組みの成果といえると思います。

アデコ:2017年3月期の業績は前期比47%増で最高益を更新し、来期もそれがさらに続くという見込みも発表されました。制度改革から4年が経過し、その影響も出ているのではないでしょうか。

西川:朝型勤務の浸透が、業績にどの程度寄与しているかを具体的な数値で示すのは難しいですね。もちろん何らかの良い影響を与えていることは間違いないと思います。

 ただ、重要なことは組織長の自主的な取り組みをはじめ「自分たちの力で働き方を変えていく」という土壌が醸成されたことで、それが大きな成果です。当社が取り組んできた働き方改革が社会的にも認知されてきたことで、「会社の目指す方向性は間違っていない」「世の中にとって価値のあること」「企業ブランドの向上にもつながる」といった認識が社員の中に広まってきました。結果、働き方改革を自分たちのこととして捉え、主体的に改革を進めていこうという社員が増えてきたと感じています。

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