グローバルで戦うための会計戦略

一つの収益認識で連結経営を強化する
【第2部】新基準の導入メリットを最大化する

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*【第1部】はこちら

顧客との約束で収益を認識する

編集部(以下青文字):日本の新たな収益基準は、これまでと具体的に何が異なるのですか。

荻野 毅 TAKESHI OGINO
1991年センチュリー監査法人(現有限責任 あずさ監査法人)入所。多数の大手企業に対する監査業務のほか、IFRS支援、IPO、財務デューデリジェンス、等の多数のアドバイザリー業務に従事。2010年よりIFRS事業部(現アカウンティング・アドバイザリー・サービス事業部)に異動。IFRS支援業務、UAGAAPコンバージョン支援等会計アドバイザリー業務に従事。

荻野:新基準は収益を「いつ」「いくら」で認識するかを決定するために、5つのステップによる収益認識モデルを定めています。ステップ1が、顧客との契約の識別。ステップ2が、契約に含まれる履行義務の識別。ステップ3が、取引価格の算定。ステップ4が、取引価格の履行義務への配分。そしてステップ5が、収益の認識です。

 ステップ1と2で収益を計上する「単位」を、ステップ3と4で収益「金額」をそれぞれ決めて、ステップ5で収益認識の「タイミング」を決める。これにより、収益を計上する「単位」と「金額」および収益認識の「タイミング」が従来とは変わることが予想されます。

 まず計上単位について、日本の実務では契約(オーダー)単位で収益認識するのが一般的ですが、新基準では履行義務、すなわち企業が顧客に対して「提供することを約束したもの」の単位で収益を認識します。仮に一つの契約に複数の約束があれば、それぞれの約束が何なのか識別しなければなりません。

 単に製品を販売するだけならば問題ないのですが、製品保証以外の付帯業務がついている場合には検討が必要です。たとえば、製品の設置のためのロケーションの設定、保守・メンテナンス、将来の機能の付加などです。

 ほかにも、建物の新築工事に伴って設計から資材調達、建設、設備の設置など、プロジェクト全般の管理を請け負うケースのように、複数の財とサービスを組み合わせて一つのソリューションを提供する場合も、それが一つの約束なのか複数の約束なのか、検討しなければなりません。

 逆に、これまで別個に契約して、それぞれ収益計上してきたものが、一つの履行義務として取り扱われるケースも出てきます。たとえば受託ソフトウェア開発などで複数のフェーズごとに契約があっても、事実上、単一のプロジェクトと認められれば、一つの収益認識単位として扱われるでしょう。さらには、建設業などで多く見られる契約条件の変更も、一つの履行義務なのか、別個の履行義務なのかの検討が必要になるでしょう。

 収益計上の単位が変われば、それに伴って当然ながら収益額が変わってきますね

山本:それが、ステップ3と4に関係するところです。顧客との間に複数の約束があると見なされれば、それらの約

山本 浩二 KOJI YAMAMOTO
1991年朝日監査法人(現有限責任 あずさ監査法人)入所。1998年朝日アーサー・アンダーセン ビジネスコンサルティング部門に出向(その後、転籍)。長年のコンサルティング経験を経て、2016年より有限責任 あずさ監査法人アカウンティング・アドバイザリー・サービス事業部。財務経理体制構築支援、管理会計制度の高度化などに従事。

束ごとに収益を認識していくので、単一の契約額や販売額を複数に配分する必要が生じます。

 家電量販店などのポイント制度もその一例です。いまこの時点でいくらでモノを売るという約束と、将来のある時点でポイント分を割り引いてモノを売りますという、2つの約束があると考えます。

 10万円の買い物をして、10%相当の1万円分のポイントがついた場合、現在は販売時に10万円の収益を計上し、1万円のポイント引当金の計上(費用の計上)をするのが一般的な処理です。これは、ポイントは将来1万円分の買い物をする権利を渡したのだから、その分費用が発生したと考えるためです。

 しかし、新基準では現時点での販売も、将来における権利の付与も、同じように顧客との約束と考えます。計11万円のものを1万円ディスカウントして、10万円で販売したと考えるのです。ディスカウント分は原則として金額比で配分するので、現時点での販売は9万1000円、将来ポイント使用時には、9000円の収益が認識されます。

荻野:いまの例のように、それぞれの約束ごとに、約束が果たされた時に収益を認識することに加え、約束を果たすのが、ある一時点なのか、それとも一定期間なのかも考えなければなりません。これがステップ5の収益の認識にかかる点です。たとえば、受け取った時に一括で収益認識していた返還不要の収入を、ケースによっては、契約期間などの一定期間にわたって収益認識しなければならなくなることもあります。

その「見積もり」で
説明責任は果たせるか

 ポイントは付与されたからといって、すべて使われるわけではありません。いつどれくらい交換されるか、失効率はどの程度か見込んでおく必要がありますね。

荻野:その通りです。単純化して説明しましたが、実際にはポイント使用の実績データなどから予想引換率や失効率を「見積もる」という作業が生じます。ディスカウントの金額を配分するだけでなく、ディスカウントの金額自体を見積もる必要があるわけです。

 もっともどこまで精緻に見積もるか、その判断は企業に委ねられています。真面目にやろうとすると際限がありませんから。新基準では収益額の変動に関して、「期待値または最も可能性の高い金額で見積もる」こと、さらに将来「重要な収益の戻し入れが生じない可能性が非常に高い」ことを要請しています。ごく大雑把に言えば、なぜそう見積もったのかをきちんと説明できて、結果に大きなブレが生じなければいい、という考え方です。

山本:暫定的な価格で収益を計上しておいて、市況変動などに応じて後から正確な価格を決定する仮単価や、取引量に応じたボリュームリベートなどについても、同様に見積もりが必要となります。適正な見積もりができなければ決算や業績予想の修正につながり、投資家の信頼を損なうことになりかねません。精度を上げるためにはデータを収集して分析するプロセスが必須ですし、新たなシステム構築や内部統制の観点からの検討も必要になってくるでしょう。

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