事業シナジーの追求が目的達成の手段となる

「バランス経営」実践の道のり<1>

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「横串を刺す共通の技術」
の上に咲く8つの成長事業群

 三菱電機はいま、8つの大きな成長事業群を持っていますが、たとえば、アメリカ型MBA経営の発想であれば、交通・電力といった社会インフラ事業のみにシフトする、あるいは、FA(ファクトリーオートメーション)や空調といった成長事業に絞るなど、選択と集中に舵を切ったことでしょう。しかし、それをやらなかった。それが結果的に、御社の「綜合力」の強さにつながっていくわけです。当時、アメリカ型経営がブームでしたが、そのトレンドに流されなかったのは、なぜでしょう。

 当時、私は全社の意思決定をする立場になかったのですが、いま振り返ると、「選択」はしているんです(図表を参照)。ところが過度な「集中」はしていない。

 「選択」の基準は、自分たちの強みとなる技術を活かせる領域です。当時の経営者がどこまで想定していたかはわかりませんが、結果的に強みを綜合する形になっていきました。

 私たちの強みとなる技術は、モーター、デバイス、無線通信(いまでは人工衛星まで幅広く伸びている)などです。デバイスは真空管の時代から強く、メモリーやLSIなど一部の半導体は分社しましたが、モーターの性能を向上するパワー半導体を残している。これらの要素技術をいかにうまく活用できるかという基準で選択してきました。

 私はそれを「技術シナジー」と呼んでいます。強い技術と強い技術を組み合わせて、より強い製品をつくる。それができる領域が、8つの成長事業というドライバーになったのです。

 たとえば、携帯電話事業からは撤退しましたが、当時の製作所のメンバーの中には兵庫県尼崎から近い兵庫県三田に異動してもらい、現在はカーナビなどを製造している人がたくさんいます。事業撤退によって雇用は失われなかったし、従業員たちは安定した成長事業へ移って活きいきと働いています。先ほど申し上げた「人を大切にする」というのは、そういうことです。

 「強みとなる技術」を活かしていくうえで、事業の選択をされたわけですが、トップが80点以上の意思決定を確実にするための基準はあるのでしょうか。

 特にありません。当社では、事業本部とは別に開発本部と生産システム本部を置いて、全社のR&Dとものづくりのそれぞれで、横串を通しています。それが結果として、「事業の選択」の成功確率を高めることになった可能性は高いでしょう。

 強い技術という横串を刺したからこそ、その上に強い製品が生み出される。それが8つの事業領域に収れんされていて、たとえば、モーターという「横串を刺す共通の技術」の上には、FA機器もあれば、鉄道やエレベーター、家電も一部入ります。共通の土壌から色とりどりの花が咲いてさまざまな実をつける。そんなイメージで当社の事業をとらえていただければ、わかりやすいのではないでしょうか。

 手堅く仕事を進める優等生的な企業風土は、チャレンジに踏み出せずリスクや変化のスピードが加速する時代に適応しにくいと評価されることもあります。変化と堅実性のバランスを図るうえで、トップとして最も重視しているのは何でしょう。

 2001年に「バランス経営」を導入し、ほぼ同時にコーポレートステートメントを「Changes for the Better」に変えました。経営が安定してくると、存亡の危機の記憶が薄れ、「うちが倒産することはない」という慢心が芽生える。ですから、止まったらダメだということを伝えたい。「バランス経営」と「停滞」とはまったく別物です。私自身は「変革に挑戦し続け、次の地平を拓く」という姿勢を貫いているつもりです。

 その前提となるのが、全社的な行動目標の共有です。まずトップの私が各組織のトップに目標をブレークダウンする。その連鎖が上位から下位へ浸透するようにしています。

 それと背中合わせなのですが、失敗を許す文化を絶やさないようにしたい。私は若い頃、何度も失敗したものですが、失敗しても許してくれる上司がいて、原因を解明して次につなげることができた。その時の体験や学習を踏まえて必ず次に活かそうとする意欲を失うことなくいまに至るのは、いつも上司たちが励まし、見守ってくれていたからです。

 この三菱電機イズムを絶やさないようにしたい。ですから、常に、「失敗を責めるな」「失敗は次の成功の元なんだ」と幹部たちに呼びかけています。

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