【富士フイルムホールディングス】

奇跡の改革を成し遂げた果断の経営

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 古森さんご自身が後継者を選ぶうえで重視することは何ですか。

 経営者には全人間的な能力が必要です。頭だけでなく全部が大事です。当社でも、書類をうまくまとめることのできる左脳型の社員はたくさんいますが、彼らは、クリエイティビティ、行動力がない。右脳が弱い。右脳には、勇気、気迫、ロマン、冒険心などがある。これを鍛えないといけません。勘のよさは経営者にとって大事な資質だと思います。マッスル・インテリジェンスという言葉がありますが、これは、意欲を伴った知性、天性の勘、野性の賢さ、というようなことです。経営者には、マッスル・インテリジェンスも重要です。

 経営幹部を育成するための取り組みなどは行っているのですか。

 幹部候補者を約20人集めて経営塾というのをやっています。この塾の課題の一つとして、私が書いた本『魂の経営』『君は、どう生きるのか』を読んで、A4用紙2枚に感想を書いてもらいます。この2冊の本には、私が50年間、社会人として経験してきたことが詰まっており、次世代の人にも必ず役に立つと思うからです。

 また、歴史や哲学などのリベラル・アーツを学ぶことも重要です。幹部候補の社員たちには『第二次世界大戦』(ウィンストン・チャーチル著、佐藤亮一訳、河出書房新社)や『日本の智恵ヨーロッパの知恵』(松原久子著、三笠書房)などを読んでもらっています。歴史や哲学などの人文科学の教養を深めておくことは、人間に必要な大局観や徹底的に考え抜く力を身につけることにつながり、非常に役立つはずです。

経営改革は7~8合目
医薬分野でイノベーションを起こす

 創立80周年となった2014年、「Value from in­novation」を新たなコーポレート・スローガンとしました。今後、どの分野でイノベーションを起こそうと考えていますか。

 当社はオフィス・ドキュメント関連事業、産業用途・ライフサイエンス事業、写真関連事業の大きく3つの事業から成ります。その中でも最も期待しているのはヘルスケアです。一昨年に大流行したエボラ出血熱への治療効果が期待されるアビガンのような感染症に対する薬剤や、がんやアルツハイマーなどいまだに解決法がないアンメット・メディカル・ニーズの高い薬剤の開発に注力しています。

 特にアルツハイマーは、患者の看護などにかかる社会的コストが年間100兆円といわれており、世界的にも開発が待たれている疾病です。しかし、新薬の開発はリスクが大きいのではないですか。

 おっしゃる通りです。一つの新薬にかかる開発費は約1000億円、開発期間は約10年もかかるうえ、それが成功するかどうかわからないというリスクの高い事業です。当社は製薬会社ではないので、他の事業とのポートフォリオを組むことで補っています。新薬の開発期間中は、他の事業で業績を支え、新薬というホームランが出れば、収益構造が一気に変わるでしょう。

 また、新薬のほかにも写真事業で培った生産技術を活かしたバイオ医薬品の受託生産や、従来の製薬会社にはないドラッグ・デリバリー技術を活かした製品にも取り組んでいます。たとえば注射液を皮膚に貼るだけで薬剤を体内に届けることができるマイクロニードルという手段に替えることで、自分でワクチンやホルモンを注射している人の負担を軽減できます。また、適切な量を、タイミングよく患部に届けるようにコントロールすることで、薬を飲む量を大幅に減らすことができます。

 これまで第二の創業ということでやってこられて、いま何合目まで来たと思いますか。

 7、8合目あたりです。あと2年ぐらいでやり遂げて、引退したいのですが、それまでに1~2つの打つべき手があります。

 最後に古森さんの趣味であるゴルフについて教えていただけませんか。私事で恐縮なのですが、ここぞという大事なショットの時、たいてい失敗します。緊張するシチュエーションで雰囲気に呑まれないためのよい方法ってないでしょうか。

 とてもよいアドバイスを一つ差し上げましょう。力を発揮できない最大の理由は、自分の関心が「失敗したら困る」という結果に向いていることにあります。そうではなくて「自分はいま、何をしなければいけないか」と考えるべきです。その答えは「このボールを正しく打つこと」ですよね。したがって、すべての関心をそこに集中させるのです。繰り返しになりますが、「何が起こるか」という結果ではなく、「いまの自分がやらなければならないこと」に意識を集中させるのです。

 先ほど、デジタル化に直面した時のご自身の心持ちについて「ただ目の前にある状況に対して全力を尽くそうという前向きな気持ちだった」とおっしゃっていましたが、それと通じる気がしますね。

 ええ。この方法は効きますよ。次回のラウンドでぜひやってみてください。【完】

 


●取材・文|松本裕樹(ダイヤモンドクォータリー編集部) ●撮影|中川道夫


*このインタビュー記事は『DIAMOND MANAGEMENT FORUM』2016年冬号に掲載されたものです。

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