税の争奪戦が日本企業を脅かす

“税引後”利益の最大化はCEOの任務

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角田 海外子会社も含めたグループ全体で税負担の最適化ができていないということは、裏を返せば税務リスクも掌握できていないことを意味します。実際、海外子会社がどんな税務コストを負担しているのか、税務リスクをどれくらい取っているのか、日本の本社が把握できていないケースは少なくありません。その結果、二重課税のコストを負担したり、意図しないところで過大な税務リスクを取ってしまっているケースも見受けられます。

 余分な税負担も見逃せませんが、行きすぎた節税対策も重大な問題です。2016年にパナマ文書が話題を集めましたが、親会社のあずかり知らないところで子会社が脱法行為に使われていたなどという事態は、絶対に避けなければなりません。

神津 税務に関する理念やビジョンが明確で、そこから導かれるポリシーと戦略があって、それを実現するための体制が構築されている。これがタックスガバナンスのあるべき姿ですが、日本企業の場合、ビジョンも戦略もなく、国や事業部ごとの部分最適や場当たり的な対応に終始していることが珍しくありません。海外も含めて、統一したポリシーの下に、自社グループの取る税務ポジションを明確にし、CEOとCFOによるトップダウンで全体把握と全体最適を図っていく必要があります。

国家間の熾烈な
税の争奪戦が始まった

 OECD(経済協力開発機構)が主導するBEPS対抗策が実施段階に入る一方で、ドナルド・トランプ大統領はアメリカ企業が海外に留保している2兆ドルともいわれる莫大な利益の還流を促す構えを見せるなど、グローバル企業の税をめぐる不確実性が高まっています。

角田 BEPSの封じ込めを主導してきたEUからイギリスが離脱することで、足並みの乱れを懸念する声があります。一方で、低成長を背景としたナショナリズムの高まりと自国第一主義の台頭が、税の分野にも影響を及ぼしつつあります。

 日本に関わりの深いところで一例を挙げれば、アメリカ国内にある外国企業子会社への課税強化は実現性の高いシナリオといえるでしょう。財政赤字を税収増で補おうとする場合、税率を引き上げるのが最も一般的な方法ですが、さまざまな理由から実行できない場合、課税ベースの拡大を検討します。トランプ政権は法人税率を引き下げるとしていて、実行すれば確実に税収は落ち込む。その減収分を補うために、日本の本社は黒字なのに、アメリカ子会社は赤字といったところに目をつけて、利益を出させて納税を迫るといったことは十分に考えられます。

 国際課税は各国の事情や思惑に応じたルール設計や、恣意的な運用がなされやすい側面があります。これまでBEPS対策の名の下に、何とか自国の課税権を拡大しようとやっきになっていた新興国に加えて、今後は先進国も含めて国家間の税の取り合いが激しさを増すと予想されます。

神津 実効税率の引き下げに積極的ではなかった日本企業にとって、BEPS対抗策の影響は、中国などの新興国との間での二重課税リスクが主と考えられてきましたが、先進諸国との間でも二重課税が救済されないリスクが高まっていると考えるべきです。

 そうした事態が進めば、全世界共通の透明性の高いルールを前提とするタックスマネジメントから、もう一段ガバナンスのレベルを引き上げて、国ごとに多様化したルールに応じたマネジメントを行っていかなければなりません。しかし、日本企業の多くはまだその前のフェーズにいます。

角田 BEPSプロジェクトで勧告された移転価格文書化のうち、マスターファイルと国別報告書の最初の提出期限が2018年3月に迫っています。移転価格の本質は、親子会社間でどう所得を配分するかということなので、移転価格文書によって事業活動の実態や、各国における納税状況がガラス張りになれば、課税を強化したい子会社所在国の税務当局にとっては非常に有効な武器となります。

 このまま手をこまねいて二重課税リスクにさらされるのか、グローバル・タックスガバナンスを構築して対抗するのか、まさしくここ1、2年が正念場になるでしょう。

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