「高度な知的処理」との共創が 経営者の可能性を広げる

AI×ロボットと経営の幸せな関係

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平野 アルファ碁やプエラ・アルファ(旧称ボンクラーズ)があそこまで強くなったのは、人間が営々と蓄積してきた棋譜があったからです。大量のデータを圧倒的な能力で処理、記憶するAIにとって、一定の型が揃ったデータが大量にある囲碁や将棋は、最も威力を発揮できる領域です。英日と英仏の自動翻訳ツールの実力の違いをイメージしていただくとわかりますが、データ量の差は品質に直接影響します。言い換えれば、定型のデータを大量に用意しない限り、AIは本当の意味で使えるようにはならない。AIやロボットを導入すればたちまち効率化が進み、新しいビジネスも生まれると期待する経営者がいるとすれば、楽観的すぎます。

田中 その点は私たちも危惧するところで、ていねいに説明して理解していただくように努めています。AIは赤ん坊と同じで、手をかけてあれこれ教えてやらなければ使えるようにはなりません。データというミルクをたっぷり飲ませて一人前に育てるのは、導入する側の役割です。

コンピュータには
向かない仕事

 過度な期待は常に幻滅に転じる可能性を持ちます。いまのAIやRPAにできること、できないことを、どのように理解すべきでしょうか。

田中 RPAではシェアードサービスセンターなどが先行しています。人事、経理、総務、営業事務などの領域で、人がERPや表計算ソフトなどを使って手作業で行っていた定型業務やデータ間の連携を自動化しています。ちなみにKPMGではRPA活用の段階を3つに分けてとらえていますが、ロボットがこうした定型業務をこなし、例外対応だけを人が担当する初期レベルから、例外対応や非定型業務の自動化といった中級レベルに進む事例がすでに出始めていて、あと1、2年もすれば普及するでしょう。さらに、作業の自動化に加えプロセスの分析や改善、意思決定までを自動化する上級レベルは5年ぐらいかかると予測しています。

 ディープラーニングに対する期待が高まっていますが、決められた活動・プロセスに対するものではなく、活動・プロセスそのものを決めさせるようなことがここ数年で実現できるようになるとは、個人的には考えていません。たとえば、経理は自動化しやすい業務だと考えられていて実際にRPAの活用が始まっていますが、経費処理一つを取っても、なぜこの客先に足しげく通う必要があるのかなど、背景を理解している人が判断しないと処理できない案件もあります。やはり当面は、「入り口」「出口」が明確なものを処理させることになるでしょう。

平野 現時点で最大の効果を発揮しうると考えられる業務の一つが、コールセンターです。日本では用件を番号で選択させて、定型的な質問の場合はそのまま自動音声で応答して、少し複雑な対応が必要な場合に人間のオペレーターへ回すのが一般的ですが、海外では最初から最後まで機械相手に話すだけのシステムも珍しくありません。オーストラリアを旅行中にタクシーを呼ぼうと電話をかけたら、自動音声で住所と時間を聞かれて、それに答えるだけで用事が全部済んでしまいました。日本人の英語も認識します。

 こういう話をすると日本語は複雑だからという意見がすぐに出ますが、難しいのは漢字だけで、文法的にも音韻的にも実はとてもシンプルな言語です。人称変化や格変化があるドイツ語などと比べて、音声認識や合成が難しいわけでもありません。背景には、人に対応してもらいたいという意識が根強いことがあるのでしょうが、それも日本に限ったことではないはずです。「日本では」「日本語は」といった特殊性を、導入が進まない言い訳にするのはそろそろやめるべきでしょう。

田中 AIやロボットに提供してもらいたいサービスと、そうでないものがあるのは万国共通の感覚かもしれません。家電量販店などでヒューマノイドの接客が一時話題になりましたが、物珍しさがあるうちはともかく、あれが一般的になっても喜ばれるかどうかは疑問です。私なら時間がかかったり多少情報量が少なかったりしても、人に案内してもらうほうが嬉しいですし、そうでなければ、スマートフォンなどを使ってガイドしてもらうほうが、むしろいいように思います。

平野 機械化が進むと、人間による接客やサービスが稀少なものとして、より価値が高まるという予測もあります。機械化しやすい仕事というとあまり高度でないものをイメージしがちですが、それは誤解です。会計士の仕事がそうであるように、複雑でもルールに基づく仕事であれば、機械化するのはそれほど難しくはありません。たとえば弁護士ならば、企業法務は機械化しやすいし、すでにパラリーガルの仕事は機械化が進んでいます。しかし、理屈では考えられない感情的で非合理的な主張が飛び出す離婚訴訟のようなものは、ロボットの手には負えません。過去のデータからリスクの高そうなところや、それが顕在化した場合の影響度などを分析するのはAIの得意とするところですから、内部統制などにも活用が進むと考えられます。

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