IoTで人智を引き出し究極のモノづくりを目指す

デンソー流 「人づくり経営」<1>

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モノづくり力を研磨し
目に見えぬ「気」をまとう

 1つ目として挙げられたモノづくり力に関連して伺います。デンソーでは生産性の向上を目指した「ダントツ工場」という取り組みをしていますね。これは具体的にどういうものなのでしょうか。

 2011年からグローバルで始めた取り組みなのですが、この「ダントツ」という言葉を外国人に伝えるのは難しいんです。英語の「アウトスタンディング」とも少しニュアンスが違うので、海外でも「ダントツ」という言葉をそのまま使っています。そして、この「ダントツ工場」とは何かということなのですが、これを言葉で説明するのがさらに難しいんです(笑)。あえて言葉にするならば「気」なんですよ。

「気」ですか。

  はい。たとえば、有名な神社とか立派な教会に行った時、その中に入った瞬間、ちょっと背筋が伸びるような独特の緊張を感じますよね。荘厳な建物や静寂な環境といった物理的な理由だけではなく、そこの施設にいる人たちからも、ある種のオーラのようなものが出ていて、それらの要素が集合して、独特の気を醸し出しているのだと思います。当社の工場も、入り口を入った瞬間、他社の工場とは違う独特な「気」を感じる人がいると思うのです。モノづくりを徹底的に研ぎ澄ませることで、そうした「気」をさらに高めていきたいと考えています。

 先日、デンソーの工場を見学した際、ある社員が「デンソーのラインには独特の“匂いのようなもの”がある」と言っていたのが印象的でした。工場内では生産機械が入った同じ高さの透明なケースが整然と並び、完成した製品が入った箱もすべて同じ高さで積まれていて、工場全体が徹底的に整理整頓されている印象がありました。これが「気」や「匂い」につながっているということでしょうか。

 そうした物理的なことも「気」を生む一つの要素ではあります。生産する製品によりますが、ご覧になった工場では生産設備が入った約150センチの透明のケースがずらりと並んで独特の雰囲気を醸し出していたと思います。ちなみに、なぜ150センチかというと、その高さに抑えることで、工場内の人の動きが見えるからなのです。見通しがよくなることで工場内は明るくなりますし、人にスポットが当たる空間にすることで、人が主役の工場となるのです。

 ではなぜ人を主役にしているのかというと、「気」というのは、現場の社員たちから醸し出されるものだと思っているからです。「絶対に一つの不良品も出さないぞ」とか「絶対に安全を守り災害を起こさないぞ」といったピーンと引き締まった緊張感や気迫とか、そうしたものが集まって生まれるのではないでしょうか。こうした「気」は現場が研ぎ澄まされていくプロセスでこそ生じるものであり、単純に「設備を置いてスイッチを入れました」という生産ラインではまったく感じることができないと思いますね。

 つまり「ダントツ工場」というのは、チャレンジングな目標を課すことによって、独特の「気」を生む活動ということでしょうか。

 その通りです。もちろん、ダントツ工場の取り組みにはKPI(重要業績評価指標)もあります。生産性や品質などにおいて、かなり厳しい数値目標が設定されています。しかし、それらの数値を達成したからダントツ工場になるかというと、必ずしもそうではありません。

 無駄がないって美しいですよね。工場の設備、物流、人の動きなどの無駄を徹底的に削ぎ落とし、美しい工場をつくることにこだわり続ける。そうすることで美しい製品が生まれてくるのです。そのために高い数値目標を設定し、切磋琢磨し、考え抜く。こうした取り組みを経てこそ、当社が目指す「気」が生まれるのだろうと思います。

 しかし数値化できない「気」が目標となると、ダントツ工場の取り組みにゴールはありませんよね。

  ないですね(笑)。

 ところで「ダントツ工場」という名称ですが、コマツは「ダントツ経営」、ブリヂストンは「全てにおいて『断トツ』」を掲げていますが、デンソーは「経営」や「全てにおいて」ではなく、「工場」をダントツにするとしていますね。

 他社のことはわかりませんが、工場とはさまざまな作業をしている社員たちの集合体です。ダントツ工場づくりとは経営陣だけではなく全員参加、一人ひとりが主役で成し遂げる目標なんです。社員それぞれの秘めた力を引き出し、弊社で働く人、家族、そして弊社の製品を受け取った人が皆幸せに感ずる究極のモノづくりを目指したいと思っています。

*つづき(第2回)はこちらです

 


●聞き手|松本裕樹(ダイヤモンドクォータリー編集部)
●構成・まとめ|松本裕樹 ●撮影|中川道夫


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