これからは 「グローバル能力構築競争」 の時代

日本のものづくりの未来<1>

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 ドイツ在住のジャーナリスト、熊谷徹氏も指摘していますが、生産財企業を中心に、伝統的に高度な職人仕事、設計力、発明精神、輸出ノウハウに加え、自社製品のソリューションビジネス化(サービス価値の付加)等によって高度な要求を突き付ける世界の顧客にきめ細かく対応する一方、製品はできるだけ社内標準化するなど、低賃金国に対抗する高付加価値の輸出ビジネスモデルを持っています。ですから、輸出貢献度も利益率も自社製品比率も、日本の平均的な中小・中堅企業よりもずっと高い。

 日本は、こうしたドイツ企業の輸出ビジネスモデルから学びながら、デジタル技術革新を並行して進める必要があるでしょう。ここでまた、日本の政策や戦略がデジタル技術の導入一辺倒になれば、失敗するおそれがあります。

 現場改善力に優れ、下請けの比重の大きい日本の優良中小製造業にはドイツと異なる強みがありますから、何でもドイツの真似をしろというわけではありません。ですが、この10数年の間に、輸出実績でドイツに大きく水を開けられた日本企業にとって、参考になる話は多いはずです。

 いずれにせよ、現地で専門家たちの話を聞く限り、インダストリー4・0には、「このままでは、上空で制空権を握るアメリカのICT企業に支配され、ドイツの自立的で高付加価値の中小・中堅製造業がアメリカ企業の下請けになってしまう。それを防ぐための4・0だ」という危機感が根底にあります。ただし、アメリカから上空の制空権を奪い返すのは、SAPなど一部のドイツ企業を別にすれば、残念ながらあまり現実的ではない、と彼らも考えています。日本も当面は、同じような状況認識でしょう。

 そこで、上空ICT界と地上FA界がネットワークでつながり始めたという認識の下、これら2層を連結する低空のICT−FAインターフェース層の標準化などで先行し、上空を制するアメリカ勢に下から対抗しようというのが、インダストリー4・0の基本的な考え方です。当然、低空の工場ネットワーク技術に強いシーメンスなどが中心になるでしょう。アメリカも黙ってはいませんから、ロックウェルのような既存勢力に加えて、GEやIBM辺りがライバルとなるでしょう。各社とも、ソフトウェアエンジニアを大量採用し、来るべき低空戦に備えているように見えます。

 先ほど申し上げたように、インダストリー4・0の狙いは、アメリカにありがちな技術主導の派手な話ではなく、ドイツの強みである中小・中堅製造業の現場力とデジタル技術との融合であるといえます。

 実際、AIによる工場の全自動化などは主たる目的ではなく、むしろ手作業が残ることを前提に、現場の作業者に意味のある情報を提供する「アシスタントシステム」の構築と普及に力を入れているようです。日本ならば、班長や職長が行う面倒見的な仕事をAIにやらせようということです。

 こうした試みは、日本企業にとって参考になるでしょうが、現場監督層の実力は概して日本の優良企業のほうが上ですから、AIの使い方も、日本の場合は「強い現場監督層」を前提にしたAI支援の異常対応・改善支援システムに力を入れることになるでしょう。具体的には、AIを多能工チームの〝メンバー〟として入れて、チームの組織能力の向上を支援し、継続的改善を促すシステム、つまり調整・統合型現場に適した活用法を模索すべきでしょう。

 このように、デジタル技術の高度化は、それを「使いこなす組織能力」を必須としますから、人材育成への並行的な投資が不可欠です。AIによって多くの人々の仕事が消えるといった欧米発の議論は、当人たちも認めるように根拠がやや怪しく、また単能工中心の移民社会アメリカで特に強調される類のものでもあります。高度な職人が強いドイツ、多能工の現場組織の強い日本では、むしろAIと労働の代替性より補完性が強調されることになるでしょう。

*つづき(第2回)はこちらです

 


  1. ●聞き手・構成・まとめ|岩崎卓也(ダイヤモンドクォータリー編集部)

 

 

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