これからは 「グローバル能力構築競争」 の時代

日本のものづくりの未来<1>

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繰り返される
デジタル化への過剰反応

 コスト格差のハンデが薄まったとはいえ、日本は依然として「デジタル後進国」であり、しかもデジタル技術は幾何級数的に進化しているといわれます。それゆえ、製造業はもとより、あらゆる産業において「デジタル・トランスフォーメーション」が待ったなしである、と訴える向きもあります。

 デジタルに関して、たしかにある部分で決定的に後れを取っていますが、かと言って、日本がすべてで遅れているわけではなく、現場系のデジタルものづくりでは、むしろ日本のほうが進んでいる面も少なくありません。やはり十把ひとからげの議論は判断を見誤るもとで、危険です。

 ものづくりやサービスの世界で「デジタル」という場合、私は、次の3層に分けて考えるようにしています。

(1)「上空」のICT(情報通信技術)層
(2)「地上」の現場のFA(ファクトリーオートメーション)層
(3) 上記1と2をつなぐ「低空」のICT−FAインターフェース層

 これらを混同しているせいで、議論が偏ったり混乱したりするのです。

 このうち、①上空のICT層はこの四半世紀、下剋上的な技術革命(レボリューション)の世界であり、グーグル、アマゾン、アップルなどアメリカ企業が各分野で一人勝ちの状態にあり、圧倒的に強い。日本企業は、この世界では存在感が薄く、残念ながらお呼びではありません。日本はデジタルが弱いといわれるのは、主にこの領域を指しているわけですが、言うまでもなくここだけがデジタル世界のすべてではありません。

 たとえば、ものづくり現場のデジタル化、つまり②地上のFA層もデジタル世界の一つです。ここは、時に工程革新を伴いつつも、基本的には現場改善や進化(エボリューション)の世界で、日本やドイツの現場が依然として強い。工作機械もロボットもそうです。このように、層が異なれば、デジタル化と競争力の構図は大きく変わってくるのです。

 それでは、上空と地上をつなぐ③低空のICT−FAインターフェース層は、誰がどう押さえるのか。ここが、ドイツの「インダストリー4・0」、あるいはゼネラル・エレクトリック(GE)が主導する「インダストリアル・インターネット」のポイントだと私は思います。

 ここでは、協調と競争を繰り返しながら、工場間・機器間をシームレスに(ストレスなしに)つなぐ工場ネットワークの標準化や、現場から湧き上がってくる巨大な情報を交通整理するコントローラーやサーバーのインテリジェント化がポイントになるでしょう。

 詳しくは別の議論に譲りますが、この層では、日本勢は技術力と実績はそれなりにあるので、よく考えて頑張れば、世界の一角に食い込み、米独日で「天下三分の計」くらいには持ち込めるかもしれません。ただし、下手を打つと草刈り場になってしまうかもしれない、とも私は認識しています。

 インダストリー4・0の話が出ましたが、実際に現地を視察されていかがでしょう。

 ドイツでは、大企業のみならず、この国の強みである中小・中堅製造業(ミッテルシュタント)のデジタル武装が大きな課題ですが、その実現はまさに目標であり、まだ端緒に着いたところです。ですから、「ドイツは日本よりはるかに先行しており、日本は周回遅れ」というのは、日本のマスコミの一部がつくり出した幻想でしょう。危機感を持つのはいいですが、その前に正確な地図を用意すべきです。

 この辺りについては、昨年秋、インダストリー4・0の本拠地の一つ、ミュンヘンで指導者や専門家たちと話をしてきましたが、彼らも、従来のやり方に自信を持っている中小・中堅製造業に、インダストリー4・0が目指すデジタル武装の必要性を説得するのは結構大変である、とこぼしていました。むろん、デジタルものづくりが重要課題であることは変わりなく、現場の切磋琢磨次第ということになるでしょう。

 我々がドイツから学ぶべきは、デジタル技術そのものより、むしろ東欧や中国との大きな賃金差にもかかわらず、国内現場から高付加価値の自社製品の輸出を続けてきたドイツ企業、特に中小・中堅製造業の経営姿勢だと思います。

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