これからは 「グローバル能力構築競争」 の時代

日本のものづくりの未来<1>

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 このように、産業の競争力を正しく理解するには、短期の動向や雰囲気に振り回されていてはだめで、現場目線のぶれない歴史観を持つ必要があります(図表「『下から見上げる』戦後産業史」を参照)。

 

 戦後数十年の冷戦期では、日本経済は高度成長と強い製造業を手にしましたが、東西の貿易圏分断によって蓄積された中国等との異常な国際賃金差が、冷戦終結後のグローバル競争において一気に顕在化したことで、1990年代以降のポスト冷戦期では、日本国内の優良現場は、生産性では勝っていても、賃金ハンデのためコストでは新興国に負けるという「苦闘の20年」を経験しました。

 しかしその後、2005年前後からの新興国の賃金高騰で、たとえば造船ならば日本と中国の溶接工の賃金差はいまや3対1に接近しています。しかも、日本の優良な国内造船現場の生産性は、中国ローカル企業の3~5倍と見られています。これなら、単位コストでも、品質や納期を含めた総合力でも戦えます。実際、世界の造船業では近年、日本の中手が高収益でほぼ一人勝ちに近い状態でした。

 では、ポスト冷戦期――大まかに言えば1990年から2010年まで――の次の20年、つまり2010年代と2020年代は、どういう時代になるのか。

 すでに2010年代も半ばを過ぎましたが、その総括も含め、現場発の歴史観から申し上げると、「グローバル能力構築競争の時代」がすでに始まっている、と私は考えます。

 まず、1990年代のポスト冷戦期には日本の20分の1といわれた中国との国際賃金差は、いまや多くの産業で3~5分の1まで縮小しています。このような中、日本国内のものづくり現場、とりわけ貿易財の優良な生産現場は、生産性をさらに2倍、3倍と高めていく能力構築の努力を諦めずに続けていく限り、少なくとも国内市場向け拠点として、あるいは輸出拠点として生き残っていける確率は、すさまじい賃金ハンデのあったポスト冷戦期に比べれば、ずっと高くなるでしょう。

 非正規従業員が中心で、トヨタ式の流れ改善によって生産性を10年で数倍に向上させていたにもかかわらず、本社から閉鎖命令が出された某家電メーカーの某国内工場のような悲劇的な事例は、本社が正確かつ長期的なコスト判断をしている限り、もう出てこないであろうと信じます。

 その一方、低賃金を武器にしてきた海外のものづくり現場も、日本などにあるマザー工場の支援を受けつつ、能力構築や生産性向上に努めなければ、輸出拠点としての存続は難しくなるでしょう。

 いま、中国の多くの工場がこの状況に直面しています。輸出拠点として残れるのは、能力構築を続ける意志と能力のある工場に限られるでしょう。「ならばロボットを導入して無人化すればよい」といったことを考える中国の経営者もいるようですが、言うまでもなく、ものづくりの現場・現実はそんなに単純ではありません。結局のところ、日本など先進国の企業や工場といった高賃金国の現場だけでなく、新興国のそれらも「流れを改善」し、生産性を向上することが必須となります。

 以上のことから、賃金格差が縮小する中で、世界中の生産拠点が能力構築による生産性向上を要求される、グローバル能力構築競争の時代に突入しているといえるわけです。

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