誰でも世界を変えられる時代「グローバル・ソリューション・プログラム」での講義

誰でも世界を変えられる時代
「グローバル・ソリューション・プログラム」での講義

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エクスポネンシャル技術の
衝撃

 その一方、私たちは、これまでに得た知識や経験、生まれ育った環境に基づいて思考します。当然、知っていること以上のことはわかりません。つまり、私たちの思考は線形で、飛躍することはないのです。ですから、人知を超えて非線形に進歩するエクスポネンシャル技術とは相性が極めて悪い、と言わざるをえません。

 イーストマン・コダックの破綻は、これが原因です。2000年前後、デジタル技術はまだ黎明期にあり、その影響も限定的でした。ところが、どうでしょう。その後は、人々の予想を超えて、爆発的に普及していきます。そして2012年、コダックはチャプターイレブン(連邦破産法11条)の適用を受け、事実上破綻します。

 この年、フェイスブックは、ケビン・シストロムとマイク・クリーガーという若い2人が設立した画像共有アプリのインスタグラムを買収しています。あまり知られていませんが、コダックは2001年、このインスタグラムの原型ともいえるオンライン写真サービスを提供するオーフォトという会社を買収しています。そう、デジタル技術のみならず、この技術も活かせなかったのです。

 コダックに限らず、デジタル技術のエクスポネンシャルな成長によって、こうした淘汰が繰り返し起こっています。次の10年間で、「フォーチュン500」の4割がこのランキングから姿を消してしまうかもしれません。

 こうした背景から、エクスポネンシャル技術とは何か、今後何が起こるのかを知ろうと、多数の企業や人々がここシンギュラリティ大学を訪れているわけです。この技術は脅威をもたらすものでもあり、だからこそエキサイティングでもあります。

 シンギュラリティ大学は、ご存じのように学位を授与する学術機関ではありません。我々が目指しているのは、たくさんの人たちに新しい現実を体感・共有してもらい、新時代の本質、すなわち、多種多様の要素が融合する中で「予想できない収れん」「予想できない結果」が生まれてくることを理解してもらいたいのです。

エクスポネンシャル技術と
ビジネスモデルが融合すると

 以前、クリントン・グローバル・イニシアティブでビル・クリントン元大統領と話す機会がありました。その時、「ピーター、なぜ君は将来について、そんなに楽観的でいられるんだ。ニュースを見ていないのかい」と聞かれました。「ニュース番組を見ないからです」と答えました(笑)。ですから、いまも楽観的です。

 閑話休題。この9週間を意義あるものにするために、3つのポイントについてお話ししたいと思います。

 全世界の平均所得は3倍、平均寿命は2倍、食糧は13倍、エネルギーは30倍、交通は数百倍に増えました。加えて、コミュニケーションは何千分の1の価格に下がっています。

 それもこれも、技術のおかげです。その結果、かつての稀少経済から潤沢経済、潤沢社会へと転換しつつあります。これが第1のポイントです。

 ほとんどの経営者が、従来の稀少経済を前提に考えていますが、それは現実を正しく理解していない証拠です。実際、本当に稀少なもの、言い換えれば、本当に不足しているものとは、いったい何なのでしょうか。

 局所的に見れば、持てる者と持たざる者が存在していますが、全世界的に見れば、お金も、水も、食糧も、エネルギーも潤沢にあります。私たちは、知らぬ間に潤沢経済を享受し、潤沢社会に生きているのです。

 今後、誰でも、水、食糧、エネルギー、情報など、生活に必要なものを手に入れられるようになります。おそらく20年以内には、貧困も解決されることでしょう。誰でも、月や火星に行けるようになります。誰でも、教育を受けられるようになります。誰でも、健康と安心を手に入れられるようになります。事実、1820年から平均寿命は延伸を続けています。

 そういう時代では、人口過剰を心配するのではなく、人口減少の可能性を考えるべきです。人口減少の主な理由として考えられているのは、女性の社会的地位の向上、医療と教育水準の向上だからです。

 ここ2世紀の間で、世界における民主化が格段に進みました。200年前は、数える程度でしたが、いまでは100カ国以上が民主国家です。

 ハーバード大学心理学部のスティーブン・ピンカー教授によれば、1946年以降、暴力行為は500分の1以下に減少しているそうです。60年前まで、地球上では、どれほどの暴力にあふれていたか、私たちはすっかり忘れてしまっています。

 年間労働時間は、半分以下に減少しています。飛行機での死亡率は格段に低下しており、飛行機での移動が一番安全であることが証明されています。自然災害での死亡率も低下しています。また、母親の出産死亡率も下がっています。

 これらは、センサーや画像解析技術など、さまざまな技術進歩によって予測と予防が大きく改善されたからにほかなりません。デジタル技術のインパクトはまさしく革命的であり、稀少経済から潤沢経済への架け橋になりました。
 起業のコストも減少しています。一昔前ならば、500万ドルの資金を集めなければなりませんでしたが、いまや5000ドルあれば起業できます。ひるがえせば、スタートアップ爆発期が到来しているのです。

 シリコンバレーの起業家たちは、面白賢い人ばかりです。なので、バカみたいなアイデアに挑戦しては、皆“爆発”しています(笑)。ですが、ブレークスルーを起こすには、バカみたいなアイデアが不可欠なのです。

DIAMOND Quarterly 第2号

2016年12月10日発売 定価840円(税込)

特集 デジタルの真価

『DIAMOND Quarterly』はダイヤモンド社が2016年10月に創刊した、「週刊ダイヤモンド」および「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー」誌の定期購読者および、東証一部上場企業の執行役員10000名に直送する唯一無二のマネジメント誌です。「21世紀にふさわしい日本的経営を再発明する」をコンセプトに、企業経営者、アカデミズム、コンサルティングファームなど各界のスペシャリストへのインタビューや提言を掲載し、経営者のための新しい知的プラットフォームを目指します。

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