“プレイステーションの父”が語るイノベーションの核心デジタル時代の「愉快な未来」のつくり方〈1〉

“プレイステーションの父”が語るイノベーションの核心
デジタル時代の「愉快な未来」のつくり方〈1〉

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夢の実現のためには、
拙速に物事を進めない知恵も

 点と点がつながってできたコンセプトを「事業化」していくわけですが、アーリーステージ、成長ステージに分けると、それぞれ何が一番の決め手でしたか。アーリーステージでは、ソニー本社は大反対の合唱でしたね。

 このプロジェクトは、モノになるかどうかわからない私の妄想からスタートしたので、最初は反対の嵐でも何でもなくて、要するに“机の下”でやっていたんです。

 夢を実現する過程で大事なポイントの一つは、これだと確信するコンセプトを立案して、プロトタイプをつくり上げるまではむやみに多くの人に相談せず、それを信じる限られた最低限の人数で極秘裏に進めることです。

 理由は、それが斬新であればあるほど全体を理解できる人がそうはいないという事実を、経験的に知っているからです。ましてや、いつ頃それが実現できそうかということまで洞察できる直観や嗅覚を持っている人は、極めてわずかです。

 拙速に企画を上に上げたり、大量の資料やパワーポイントをつくって説得に回ったりするのは、時間の無駄です。多くの人が、「それなら俺もわかる」となるような案件なら、もうとっくに終わっています。

 ですからこの段階では、とにもかくにも自分の手でつくり上げられるような技術者やスペシャリストを、ごく少数でいいから仲間に引き入れることですね。幸いなことに、ソニーのような大企業の中には、そんな猛者が大して活用もされずに組織内に埋もれているケースが多いのです。

 井深大さん、盛田昭夫さん、大賀典雄さんの時代には、尖った社員を手のひらに乗せて、思いっきり突っ走らせる猛獣使いのような、度量の大きなマネジメント層がたくさんいました。

 しかしその後は、そんな人間は前線を引退されるか、外に出るか、遠ざけられてしまって、のちのソニー凋落を招く原因の一つになってしまいました。

 社員の側にも、「プロジェクトを認めてほしい」とか、「実現するための予算がほしい」とか言っている“他力本願”な人間が以前より増えたように思います。

 これは、いまの日本の大企業にも共通していえることですが、必要以上に失敗を怖れてリスクを取ろうとしない社員が多くなりましたし、ありきたりの企画を通して開発行為そのものを外部に委託したり、やたらプロジェクトの人数を集めて組織自体を大きくしたがったりする風潮がはびこっていて、今後の行方が少なからず心配になります。

 開発に当たって、「予算がほしい」とは言わなかったのですね。資金手当てはどうされたのですか。

 やりたいことが自分の中にあり、むやみに周りに相談できないとなれば、まずは自分で稼ぎ出すしかないでしょう。何かを始める時には、リソースとして、まず人材とお金がいりますよね。

 人材は、ソニーグループのような大企業には、一般的に豊富にいるものです。先ほど言った通り、有能な人材が大して活用もされず組織内に埋もれているケースもある。ふだんから、誰がプロジェクトに必要な人材かをあらかじめ時間をかけて目星をつけておけるかが、いざという時の勝負どころになります。

 事業部門では、有能な人材にはすでに多くの仕事が任されていて、すぐに引き抜くことが難しいケースがほとんどですが、ソニーには、本人が強く希望し、自発的に当該プロジェクトに参加したいとなれば、引き継ぎのための一定の期間後は、自動的に異動可能になるという社内応募制度も整備されていました。

 また、組織的にナンバーワンでなくても、実力はナンバーワンといった猛者もけっこう隠れているものです。半面、研究開発部門に在籍している優秀な研究者は、本社部門ではコストセンターに所属していたので、指名した人材を引き抜きたいと申し出ると歓迎されたりもしましたね。

 一方、お金に関しては、予算獲得のためにみんながどれほど無駄な時間と労力を重ねているか、入社した頃から肌身で実感していましたから、最初の軍資金と当面のキャッシュフローは、自分たちで稼ぎ出そうと、固く心に決めていました。

 戦略的にマネタイズの手を打っていたのですね。ただのサラリーマンじゃない。 

 私の実家が商売をしていたので、自然と身についたのでしょう。それをよく見ていたのが役に立ったと思います。

 当時、我々のグループは研究開発部門に所属していたので、みずからのプロジェクトが生み出した知的財産収入を特別にプールしてもらいました。また、事業化につなげた案件からの利益貢献も個別に認識してもらいました。これには、予算配分権限を握っている管理部門の人間も舌を巻いていたかと思います。

  1. *つづき(第2回)はこちらです。


●聞き手|森 健二
●構成・まとめ|森 健二、宮田和美(ダイヤモンドクォータリー編集部)
●撮影|佐藤元一 ●イラスト|HERETIC, inc.


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