“プレイステーションの父”が語るイノベーションの核心デジタル時代の「愉快な未来」のつくり方〈1〉

“プレイステーションの父”が語るイノベーションの核心
デジタル時代の「愉快な未来」のつくり方〈1〉

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「大きな夢の描き方」を学んだ、
かけがえのない2つの体験

「プレイステーション」というイノベーションを、いまあらためて振り返ってみて、どうとらえていらっしゃるかをお尋ねします。

  •  まず伺いたいのは、「大きな夢の描き方」です。夢を抱くことは誰にでもあるでしょうが、その夢を持続させ、新しいコンセプトとして結晶化させていくのは簡単ではありません。コンセプトが結晶化していく過程で一番影響を受けたこと、大事だと思うことは何でしょうか。

     先ほども触れましたが、「コンピュータ・エンタテインメント」という新しいドメインを、世界中の人々と一緒に一気に加速させたい、これが自分にとってのビッグピクチャーだったと思います。

     たとえば、書籍というメディアが一気に花開いたのは、15世紀中頃の活版印刷技術の誕生が契機になりました。音楽は1877年のエジソンによる蓄音機の発明によって一般大衆に広まり、映画は1895年のリュミエール兄弟による投影型映写機の発明が最初といわれています。それぞれ100年以上経った現在においても、人類にとって素晴らしいエンタテインメント・ジャンルであり、コンテンツであり、世界規模で一大市場を形成しています。

     そして、コンピュータというテクノロジーもまた、この世に誕生して半世紀ほどしか経過していないのですが、底知れぬ可能性を秘めたメディアととらえることができるのではないでしょうか。コンピュータは、主に大量の事務処理計算やハードウェアの設計補助といった目的で導入が進みましたが、まったく別の目的で活用しようというアイデアも、エンタテインメントの制作分野で模索され始めました。

     コンピュータとエンタテインメントの融合で新たなメディアが誕生する――。自分がそう強く確信できた背景には、かけがえのない「2つの体験」がありました。

     最初の体験は、青春時代に観た映画『2001年宇宙の旅』(スタンリー・キューブリック監督、1968年公開)です。そのロマンチックで深遠な未来を描く世界観に身の毛がよだつような感動を覚え、映画館の最前列に陣取り、包み込まれるような視界で何度も何度も繰り返し鑑賞しました。

     何より魅了されたのは、木星に向かう宇宙船の心臓部に搭載されたコンピュータHALです。IBMのアルファベットを前に1文字ずつずらしたといわれているこの未来のコンピュータは、人間の会話を唇の動きだけで完璧に理解してしまうし(注1)、それだけでなく、人間の思考や意図(コンテキスト)をリアルタイムに読み取ります。

  • 注1)
    HALの振る舞いに疑念を持った宇宙船のクルーたちが、声を聴かれないよう、小さな脱出用ポッドで対策を話し合うのを、HALは窓越しに読唇していた。

     そのHALの暴走を止めるべく宇宙飛行士の一人であるボーマン船長が一枚ずつ並列コンピュータのカードを引き抜いていくシーンでは、HALの知能がスケーラブルに減衰していく。そのリアルな描写に、戦慄すら覚えたものです。

     また、この映画における謎に満ちた象徴的なシーンであり、未来を的確に予測していたといえるのが、「モノリス」という謎の黒い石版の存在です。あれは明らかに未来の「知」を固定した巨大なデータベースであり、いまで言うAI(人工知能)そのものであると思います。

     モノリスはこの映画に計4回出てきますが、最初は400万年前の地球で、サルがヒトに進化するタイミング。2回目は1999年、月に移住した人類が地下にあったモノリスを掘り起こしたことで、人類を惑星間飛行で木星へと導く。3回目は2001年、木星へ向かうボーマン船長の前に突如現れる巨大なモノリス。するとスターゲートが開かれて、人類は恒星間移動すら可能になる。最後のモノリスは人類を異次元の世界へ導き、「超人類」が誕生する。ここで描写されたモノリスは、我々人類を「非連続」的に進化させる深遠な超知能の存在として描かれているのです。

  • もう一つの大きなきっかけは、1986年夏に開催されたシーグラフというコンピュータグラフィックスの国際学会でのことです。会場で上映されたピクサー(注2)制作の『ルクソー・ジュニア』という短編3Dアニメとの出会いです。それは2台の擬人化されたZライト型電気スタンドに、まるで親子のように命と感情が宿り、みごとにストーリーが表現されていたのです。ものすごい衝撃と、湧き出る感動に包まれました。この瞬間、「コンピュータという、人類がいままで手にしたことがないメディアが誕生しようとしている」と、戦慄が走ったのです。

  • 注2)みずからが創業したアップル・コンピュータ(現アップル)を追放されたスティーブ・ジョブズが1986年2月、『スター・ウォーズ』のジョージ・ルーカス監督が率いるルーカス・フィルムのCG部門を買収し、同部門のマネジャーだったコンピュータ科学者、エド・キャットムルとともに創設した3DCGのアニメーションスタジオ。現在はウォルト・ディズニー・カンパニーの子会社で、『インサイドヘッド』『ファインディング・ドリー』などのヒット作品を生み出し続けている。『ルクソー・ジュニア』は同社を代表するCGアニメーター、ジョン・ラセター監督の作品。

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