官僚制を極小化すれば、生産性も収益性も劇的に改善する 

経営にもイノベーションが必要である<1>

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 社会学者のロバート・キング・マートン――金融工学でノーベル経済学賞を受賞したロバート・コックス・マートンの父親です――も、「官僚制の逆機能」という考え方を通じて、同様のことを指摘しています。

 まだまだ挙げられるでしょうが、マネジメントイノベーションに目覚めた一部の企業を除き、あらゆる国のあらゆる組織に見られる症状なのです。しかも、「パーキンソンの法則」(業務量とは無関係に、役人の数は増え続けるというもの)を証明するかのように、官僚制は膨張しています。これはアメリカの話になりますが、民間部門における執行役員、管理者や監督者などの官僚階級の数は、この20余年間に倍増しています。

  1.  19世紀ドイツの社会学者、マックス・ヴェーバーは、官僚制を「鉄の檻(おり)」と呼びましたが(注5)、それから100年以上経った現在も、この檻は壊されるどころか、より堅牢になっています。
  2. 注5)
  3. 高橋伸夫「殻-⑴ “鉄の檻再訪”再訪」『赤門マネジメント・レビュー』 10巻4号(2011年4月)によれば、この言葉が登場する『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の原典(ドイツ語版)には、「外枠」(gehäuse/ゲホイゼ)とあり、英語版において「鉄の檻」(iron cage)と訳されたという。また、官僚制の比喩として使われていたわけではなかったそうである。

産業革命の100年前に
何が起こっていたか

 官僚制の起源は、古代エジプトに遡るといわれています。

 大昔の官僚制と現代の官僚制は、ヴェーバーによって区別されていますが、少なくとも数百年の歴史がありますから、一口に改革といっても一筋縄ではいきません。とはいうものの、新しいマネジメントモデルを発明することは21世紀の最重要課題の一つであると、強く申し上げたい。そのためには、新しいマネジメントモデルの実践者を知ることも重要ですが、歴史に学んでみることが何より有益です。私はいま、産業革命について学び直しています。

 1850年頃、つまり産業革命の初期、労働生産性は大きく向上します。それは、ご承知の通り、蒸気機関、標準化技術、大量生産システム、都市生活者の増加などによるものです。私は、さらにその100年前について調べてみました。結論から申し上げると、産業革命の萌芽はこの頃に発生していたと考えられます。ただし、新しい技術の登場ではなく、思想や価値観の変化です。それは、大きく4つあります。

 第1に、「歴史は繰り返される」という考え方から、「過去とは違う未来をつくり出せる」と考えられるようになった。つまり、進化や成長が可能であるというわけです。

 第2に、「神の秩序」に疑問が呈された。トマス・ペイン――アメリカが独立することの正当性を説いた『コモン・センス』は当時250万人しかいなかったアメリカで50万部、またフランス革命を擁護する一方、イギリスの君主政を批判した『人間の権利』はイギリスで200万部も売れたそうです――によって、人間は皆自由かつ平等であり、一人ひとりが夢や理想を追求できるという考え方が示されたのです。ペインもそうですが、当時のヨーロッパの人々は、キリスト教的世界観や封建的思想を批判し、人間性の解放、平等や自立を目指す「啓蒙思想」に大きな影響を受けていました。

 第3に、イギリス、フランス、オランダなどの絶対王制国家が採用した管理経済政策である「重商主義」から、これを批判したアダム・スミスが唱えた「自由放任主義(レッセフェール)」にシフトした。つまり、個人の自由でオープンな経済活動が奨励されるようになったわけです。

 最後に、「金儲けは汚い」「商売は下品な行為」という考え方が影を潜めていった。そして、会社が一般化し、商売や事業は社会的に受け入れられていきます。要するに、産業革命という現象が顕在化する以前に、こうした思想革命があったのです。

*つづき(第2回)はこちらです


  1. ●聞き手|音なぎ省一郎/岩崎卓也(ダイヤモンドクォータリー編集部)
  2. ●構成・まとめ|岩崎卓也 ●イラスト|El Pino ●写真|音なぎ省一郎

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