VUCA時代の監査論❶

[対談]経営者はいかに監査を活用すべきか

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市場はもとより
経営にも資する

金井:経営者の胸に響いて、社外取締役や監査役にも有益な監査とするためには、我々外部監査人がいま以上に、経営者や執行役、そして統治責任者との間で、深度あるコミュニケーションを取ることが欠かせないと考えています。
時には厳しいことを言わなければならないこともあるでしょう。しかし、それを躊躇してはだめです。これからの監査人に求められるのは、経営と監査の間のよい緊張感の下、第三者の視点で経営を理解し、評価すること。そして、必要な場合はチャレンジも辞さない姿勢を貫くことです。
川本:企業ももっと監査に期待していいのではないでしょうか。健全な緊張関係を維持することは言うまでもありませんが、単に情報開示によって市場の信頼を得ることだけに留まらず、経営に役立てることは十分可能なはずです。
私が知る企業の中に、監査役が監査法人に注文をつけた結果、監査報告の質が大きく向上した例があります。たくさんある中でも特に重要な課題や、単年だけでなく継続的に留意すべきポイントを示してもらうことは、執行役にとってはもちろんのこと、社外の監査役や取締役にとって貴重な機会です。
 その結果、取締役会での議論が深まり、執行役もより緊張感を持って業務に当たるようになれば、当然ながら経営にもよい影響をもたらします。会計監査は、財務諸表の利用者はもちろん、作成者である企業にとっても、もっと有意義なものにできるのではないでしょうか。
金井:ご存じのように会計監査の目的は、企業が作成する財務諸表の適正性について意見を表明して公共の利益を擁護することで、最優先されるべき受益者は投資家、より広くとらえれば社会の人々ということになります。
しかし、だからといって、経営に付加価値を提供してはいけないということはまったくありません。客観的な第三者の視点で経営に貢献することは十分に可能ですし、そのことは市場の番人としての使命と何ら矛盾するものではありません。

「期待ギャップ」問題に
応える

川本:公共の利益という点から言えば、結果的にではあっても不正会計を見逃す監査の質に対して、日本だけでなく世界中で厳しい目が向けられています。
 会社ぐるみの大規模な不正が長年にわたって見逃されたり、突然死するような企業が出ると、世間一般の感情としてはどうしても、監査法人に対する信頼を裏切られたような気がしてしまう。これは仕方がないのではないでしょうか。社会の期待と実際の監査業務の乖離を指す「期待ギャップ」はよくいわれるところですが、それで議論を終わりにしてはならないと思います。
金井:監査人は捜査権を与えられているわけではないし、仮に不正発見のための監査手続きを行う場合、それに伴うコストを誰が負担するのかという問題もある。制度上の限界があることは事実です。
 しかし、不正によって財務諸表に重要な誤りがあれば適正意見は出せないので、そうした監査の過程で得た情報が不正発見につながったり、ガバナンスの向上に役立つことはあります。監査人は不正発見に無力なわけではないし、社会の期待に背を向けるつもりも毛頭ありません。
川本:フィナンシャル・ゲートキーパーとしての役割をいかに果たすか、より積極的な関与を期待したいところです。その結果、資本市場の信頼性が維持されれば、投資家のみならず、企業にとっても社会にとっても、その意義は極めて大きいものになります。

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