企業理念の実践で、自走的成長構造を構築

AI時代に価値を生み出す
「共鳴するマネジメント」【前編】

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企業理念経営に不可欠な
遠心力と求心力のバランス

  「VG2020」は3つの中期経営計画で構成されていますが、その最終ステージとなる「VG2・0」では、4つの事業ドメイン(FA、ヘルスケア、モビリティ、エネルギーマネジメント)にフォーカスしていますね。

 そうです。これはオムロンが持っている技術と顧客基盤、それと、これからの世の中で生じるであろう社会的課題を踏まえ、オムロンが最も価値を提供できる領域はどこか、という考えに基づいています。
 FA(Factory Automation)で言えば、人手不足や技能工の高齢化で匠の技をどう継承するか、製品の高精度化により人手でつくるのが難しくなったなどの社会的課題を、我々のオートメーション技術で解決できるだろうと考え、重点事業としました。
 なお、オムロンは企業理念経営を行っているので、事業ドメインやエリアを「限定しない」のが特徴です。「よりよい社会をつくる」がテーゼで、「技術の軸」が共通していれば、事業ドメインやエリアは異なってもいい。なぜFAメーカーがヘルスケア事業をやっているのかとよく聞かれますが、実はセンシング&コントロールという技術の軸は同じなのです。
 ただしここで問われるのが、事業を拡大しようとする「遠心力」と、その判断のよりどころとなる「求心力」です。ヘルスケア事業のケースでお話ししましょう。ヘルスケアでは「人体のセンシング&コントロール」をコンセプトに、血圧計、体温計、心電計、動脈硬化の計測器など、いろんな製品があります。さらには、ドライバーの安全運転を管理するための機器やサービスなども生まれています。多様な技術の組み合わせでソーシャルニーズに応えるいろんなチャレンジが起き、事業ドメインが広がっていくのです。また、南米でも血圧計を普及させようといった具合に、事業エリアも広がっていきます。
 この事業を広げていく力、つまり「遠心力」はオムロンの強みでもありますが、半面、広がりすぎると戦端が伸びて、やがては兵站(へいたん)が持たなくなり、局地戦で負けたりと、さまざまな不都合が出てきます。そのため、どこかで事業を収れんさせる必要が出てくるわけですが、その基準となるのが事業ドメインを絞るということです。事業ドメインは未来永劫同じではありません。それぞれの時代において、なぜその分野でオムロンが事業を展開するのか、その意義は何なのかを、企業理念に即して徹底的に議論し、設定する。これが、企業理念が「求心力」であるということです。
 また、オムロンは、事業特性が異なる複数の事業部門を公平に評価し、投下資本に対する利益を測るための「ROIC経営」を採用しています。いろんなことにチャレンジしても結果が出ないことはもちろんあります。Aの事業よりもBの事業にリソースを振り向けたほうがいいといった判断を客観的に行うために、ROICで経済的価値と市場的価値を見直していく。これを常にやっています。
 このようにオムロンでは、「事業を広げていく力」と「事業を収れんさせて局地戦で勝つ」ということを同時にマネジメントしています。事業のドメインをここしかやらない、と決めることもできますが、そうすると、企業理念と齟齬を来します。これだけ理念を謳っていながら、ここしかやるなと限定すれば力は落ちてしまう。だからチャレンジをしよう。でも挑戦してダメだったら撤退することもある。それを明確にしているのです。

 まさに遠心力と求心力のバランスですね。

 そうです。試行錯誤を繰り返しながら、オムロンにフィットするマネジメントの目標基準をどうするか。KPI(重要業績評価指標)として何を測るか。それをたえず議論しながら進化させてきました。この「少しずつ進化」が、実はオムロンが得意なところです(笑)。
 また、オムロンが掲げている「売上総利益率(GP率)の向上」も、この「少しずつ進化」の実践でもあります。というのも、GP率は我々が提供した価値をお客様にどれだけ高く評価していただけたかの証だからです。営業利益率を指標にすると、開発費や販管費をカットすれば利益率を上げられますが、GP率はお客様に買っていただいた売上げから製造原価を引いたものですから、価値をどれだけ評価してもらえたのかをストレートに示す指標になるわけです。
 GP率の推移を見ると(図表1「オムロンの業績推移」を参照)、2012年が37・1%。これでも国内電機メーカーの水準より高いのですが、少しずつ改善することで、2017年は41・6%になりました。利益率の高い電子部品メーカーと比べても上回っています。顧客価値をどれだけ向上できたのかの物差しとして、GP率の向上を追い求めています。

*後編はこちら


●聞き手|森 健二
●構成・まとめ|森 健二、宮田和美 ●撮影|佐藤元一

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