働き方改革はマネジメント改革信頼をベースにした組織をいかにつくるか

連載:働き方フロンティア 【第8回】

働き方改革はマネジメント改革
信頼をベースにした組織をいかにつくるか

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「昇進、昇格」ではなく
「適材適所」

 管理職を昇進、昇格ではなく適材適所と捉えることも、信頼をベースとしたマネジメントの大きなポイントである。

 従来の組織で管理職に登用されるということは、登用の字義通り、上位の人が下位の人を引き上げる、つまり昇進であり、昇格だと考えられる。

 その動きは不可逆的で、懲罰的な目的がない限り、課長から部長になった人が再び課長に戻ることはない。結果として生じるのは、現場でこそ高い生産性を発揮する人財が、管理職になったことで力を発揮できず、横滑りの異動を繰り返すということ。降格に対する、個人としても組織としても受け入れ難いイメージのために、両者の不幸につながるのだ。

 管理職に一度就いた後で、適性がないと判断されれば、役割を外れるということがあってもいいのではないだろうか。それは、管理職はその人に適した「ポジション」ではなかったという考えからだ。逆の言い方をすれば、管理職以外の方がその人のパフォーマンスが向上するという信頼である。

 これを仕組みとして実現しているのが、防水透湿性素材の「ゴアテックス」で知られるW.L.ゴア・アンド・アソシエーツである。前述のモーニングスターと同様、同社では上司・部下という関係が存在しない。階層型組織を捨て、全ての業務が人と人、チームとチームが有機的かつ直接的につながる格子型組織によって運営されているのである。もちろん、機能としてリーダーが必要な局面もある。その場合でも経営者や役員がリーダーを任命するのではなく、その業務やグループに関係する人々の信任によってリーダーという役割が決まるのである。

 社員は適したポジションでは力を発揮するし、結果として組織の生産性も上がる。ビジネス環境も社内の人財も変化していく中で、常にその全体最適を追求するためには、管理職も1つのポジションとして捉えた上で、組織内の人の流動性を高める必要がある。

成果指標を多様化すれば
「やる気の出る組織」が実現する

 もう1点、評価指標の柔軟化というポイントにも触れておきたい。

 人財評価では、売り上げやコストといった定量的な指標で公正を保つという考え方が一般的だ。そして、単に数字だけでは適正な評価はできないということも共通認識として広がっている。キャリアプランを共有し、その計画に基づいた望ましい行動特性などを指標にするというのもその1つの表れだ。

 キャリアプランは人によって違うし、その進み具合も人によって変わってくる。当然のことながら、その評価には多様性を受容するシステムが必要となるが、それは評価だけではなく、報酬の考え方にも及ぶ。かつては給与や賞与、ポジション、名誉(表彰など)に対する欲が働く人を動かしていた。しかし、その状況は大きく変わりつつあり、近年の若者を対象とした各種調査では、収入やポジションよりも「自分らしく働くこと」を重視する人が非常に多くなっている。

 新卒社員の3年以内の離職率は平均で約32%に達するといわれるが、その離職率の高さの根源には、こうしたモチベーションの多様化に企業側が適応できていないという事情があると考える。新卒社員全員が同時に受ける集合研修や、横並びの教育プログラムは、そのような多様化とは真逆の施策と言っていいだろう。

 前述のモーニングスターでは、評価指標の代わりに「ミッション合意書」なるものが存在する。これは期間中のミッションを社員が自分で決めて表明するというものだが、そこで示されるミッションは自分の業務に関係する仲間と相談しながら決定する。会社はこの決定とそれを実現するための方策に一切の口出しができず、評価においてもまた、本人と周りの仲間が一緒になってミッションが達成されたかどうかを検証する。社員がどのように貢献すべきかを自分で決めるシステムであるため、多様性が担保され、それぞれが最も力を発揮できる働き方が実現する。

 モチベーションの多様性、能力の多様性に応じて評価指標を多様化することによって、企業に対する社員のエンゲージメントも高まることになるだろう。社員のエンゲージメントがないところに企業の成長はあり得ない。より平易な言い方をするならば、一人一人のやる気が組織の活力を生むということだ。やる気を測る物差しはないが、それが企業の成長に与える影響は小さくない。やる気、すなわち仕事に能動的に向かう意気込みは、必ず生産性の向上につながるからだ。

 経営者はどうすればやる気のある社員が採れるかと考え、主体性のある人財を採用するために情報チャネルを張り巡らし、選考方法を更新していく。しかし、やる気とは本来全ての人が持っているものである。重要なことは、どうすれば社員のやる気を引き出す仕組みになるかを考えることである。

 評価を社員に任せれば、甘い結果しか出てこないと考えるのではなく、もっともやる気の出る評価システムを知っているのは社員本人だと考えることがポイントである。社員全てが利他的に働けるという信頼をベースにすれば、こうした考えに立つことは不可能ではないはずだ。

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