【帝人】赤字と黒字を繰り返した不安定経営から脱却

長期的視点で種を蒔きイノベーションを加速〈2〉

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日本の個人投資家は
企業の将来性に注目を

 経営者の資質としては、どのようなことを重視していますか。
 アメリカ、ヨーロッパ、アジアで、それぞれ求めているリーダー、理想のリーダーは違います。置かれている状況によっても、求められるリーダーは異なる。私が社長に就任したのも、こういう状況に、こういうタイミングだったから、なっただけのことだと思いますね。どういう経営者がいいのかと問われても、一般論では語れないように思います。
 織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の性格や行動様式を、ほととぎすになぞらえて詠んだ言葉がありますね。時代によって要請されるものが違うということだと思います。信長の時代には、とにかく即断即決。でも、家康の時代になって世の中が安定してきたら、待たなくてはいけない。リーダーに求められるものも変わってきます。
 経営者としての資質を挙げるとすれば、私利私欲はあるにせよ、経営者はやっぱり他利の心で動かなくてはいけない。公正公平であることが重要でしょうね。

 私情をはさまず、経営の透明性を高めようということで、帝人は1999年からコーポレートガバナンスの強化に取り組んでおられます。社外の有識者を招いたアドバイザリー・ボードを設置しており、次期社長もそこで決めるそうですが、自分が注目している人物が次の後継者になるか、わからないということですか。
 結果はわかりません。アドバイザリー・ボードのメンバーは8人で、6人が社外の方。春と秋の年2回開催され、その際に次期社長候補と考えられる役員などがプレゼンをし、メンバーとの面談の機会となります。一発勝負で決めるわけではありません。私も4回プレゼンさせられました。2014年4月に私が社長に就任した直後の5月の会合から、サクセッションプランが議論され、私の後継者選びが始まりました。

 社長を辞めるタイミングは、ご自身で決められるのですか。
 いえ、そうではありません。アドバイザリー・ボードの権限は強く、社長の辞任を取締役会に進言できますので。社長の後継や社長の報酬も同様です。大所高所からアドバイスを頂戴していますが、強烈ですよ。「あの社長、パフォーマンスが悪いからそろそろ代えろ」なんて言われた日には、それが取締役会の議題に上げられてしまうわけです。

 そうすると、派閥などはできにくいということですか。
 派閥はありませんね。他の会社の方からも時々聞かれることがありますが、「ありません」としか答えられません。中間層で力の強い人や声の大きい人はいるでしょうから、社員の間に群れのようなものができることはあるかもしれませんね。学閥もありません。入社して最初のうちはやっぱり上の人の行動を見ているでしょうね。いいところもある上司なのに、悪いところだけすぐ真似することが多いようですが。

 鈴木さんご自身は、「一期一会」という言葉を大切にされているそうですね。
 その時、そのタイミングにしか会えない人がいるわけで、できるだけ機会をつくり、人と会うようにしています。
 ちょうど私がヘルスケア部門で事業開発を担当していた時、ヘルスケア系のベンチャーが盛んだったこともあって、山のように話が持ち込まれました。その時に先輩がアドバイスしてくれたのですが、「みんな玉のように見えるかもしれないが、玉石混淆で、その中から本当にいいものを見つけないといけない」と。真剣に人を見て、中身を見て判断するしかない。その時、人に会わないという選択肢は、自分で自分の可能性を消すことになります。会える限り、人には会ったほうがいい。もちろん、謙虚な態度で。

 書籍との出会いなども大切にされているのですか。
 動物好きで、大学院でミミズの研究をしていた私としては、最近読んだ本の中で『したたかな寄生』(成田聡子著、幻冬舎新書) が面白かったですね。「脳と体を乗っ取り巧みに操る生物たち」というサブタイトルで、ゴキブリを奴隷のように仕えさせる宝石バチなど、寄生者の恐るべき支配力を紹介した、気持ち悪い本でした。生物系の本など、けっこう読んでいますよ。
 直接お話ししたこともある原丈人さんの『公益資本主義』(文春新書)は、本質を突いた本だと思います。いまのアメリカ型資本主義は株主資本主義で、株主資本主義が行きすぎると考えが短期的になり、長期にどうこうしようという話が消えていくという内容ですが、その通りだと共感しました。
 10年とか15年のスパンで会社のことを考えないといけないわけで、そうした方針に共感してくれる人たちと仕事がしたいし、応援してもらいたい、株主になってほしい。どうしたらいいんだろうと、常々考えていた時、「こういう解がありますよ」と、原さんの本が提示してくれました。

 長期的な視点が重要だというのは、鈴木さんの信念のようですね。
 一番気になっているのは、スチュワードシップ・コード(責任ある機関投資家の諸原則)と、コーポレートガバナンス・コード(守るべき行動規範を示した企業統治の指針)が、どこまで行ってしまうのだろうということです。Comply or Explain、遵守(コンプライ)せよ、さもなくば説明(エクスプレイン)せよ、と問われると、私は「コンプライ」と答えてきました。帝人のコーポレートガバナンスは、20年近く前から取り組んできていますので、それなりにしっかりしたものになっています。その上に、さらに要求がエスカレートし、完全にアメリカ型でいけと言われたら、どこかで抵抗しないといけないかなと思っています。

 どの辺で抵抗すべきだとお考えですか。
 線引きは難しいですね。アメリカ型が完全に株主資本主義であるのに対し、日本はもともと「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方よしから始まっている国で、「株主のために」とは言いますが、すべてのステークホルダーにいい会社でありたいとも思っているわけですから、株主資本主義なんて言えないはずです。
 日本の株式市場に海外の機関投資家が増えており、配当性向を高めることにより日本のお金がどんどん海外に出て行っている。その現状を危惧しています。

 もっと日本の投資家が日本の企業に投資すべきだということですか。
 そうですね。しかも個人投資家が。NISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金制度)などの仕組みができて、株式投資へのハードルを下げていますが、まだ微々たるものです。長期的な経営戦略を展開する日本企業と、イノベーションの力を信じていただきたいと思っています。【完】


●聞き手|前原利行/岩崎卓也(ダイヤモンドクォータリー編集部)
●構成・まとめ|前原利行(ダイヤモンドクォータリー編集部) ●撮影|和田佳久


 

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