【帝人】赤字と黒字を繰り返した不安定経営から脱却

長期的視点で種を蒔きイノベーションを加速〈2〉

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モビリティの軽量化・堅牢性
15年はニーズが続く

 マテリアル事業の戦略について、お考えを聞かせてください。
 帝人グループの強みは、2017年1月に買収した北米最大の自動車向け複合材料成形メーカー、CSP(コンチネンタル・ストラクチュラル・プラスチックス)を核とした、ライトウェイト・ビークル・モビリティ(軽量の乗り物)に向けた展開です。
 CSPはガラス繊維複合材料において高い優位性があり、一方、帝人には炭素繊維複合材料の技術があり、車のボディなどの成形加工で強みを発揮することができます。CSPの買収により、北米における強力な販売チャネルを獲得し、ティア1(1次請け)サプライヤーとしてグローバル展開を加速していくことになります。融合を早急に進め、CSPを含む帝人グループが一丸となって、シナジーの最大化を図りたいですね。
 炭素繊維の重量は鉄の4分の1で、強度は10倍。とにかく動くものに関しては、これからの10年、15年は軽量化が必須で、ある程度の堅牢さも求められます。30年先の2050年頃になると衝突しない車が実用化されているかもしれませんので、その場合は、素材の強度が問われなくなるかもしれません。しかし、ここ15年ぐらいは軽さと堅牢さを兼ね備えておく必要があります。
 自動車の軽量化に際しては、自動車の設計やデザインまで共同で開発させてもらいたい。素材を売ってきたこれまでのビジネスとは違い、顧客価値を高めるソリューション提供型企業に変わっていくということです。「こういうものをつくって、納入してくれ」というのは指示ですが、逆に「このようなものができますよ」という提案や価値の提供をしていきたいと思っています。
 また、当初よりマルチマテリアル化の実現を標榜していましたが、すでにCSPは自社のガラス繊維複合材料に鉄やマグネシウムなどの他素材を併せて使うなど、マルチマテリアル化を推進しており、進捗の速さに嬉しい驚きを感じています。

 CSPとともに、今後どのような戦略を展開するのですか。
 素材メーカーからティア1サプライヤーに、さらにデザインや設計の能力を備えた部品供給パートナーへと、ビジネスモデルの変革を進めていきます。ボディ、構造材だけでなく、駆動部、ブレーキ、電子制御系などでも素材革命が起きると思いますよ。
 大手の自動車メーカーは、各社の、いろいろな素材を試していると思います。新素材の導入が始まると、パッと流れが変わることもあるかもしれません。車が軽くなれば、燃費がよくなり、それが全体として二酸化炭素の排出削減や環境保護につながり、明るい未来が見えてきます。
 また、帝人のポリカーボネート樹脂製のフロントウインドーが、世界で初めて市販車に搭載されました。これはガラスの2分の1の軽さで、200倍の耐衝撃性があるポリカーボネート樹脂の特性を活かしたもので、フロントガラスとAピラー(支柱)を一体化しています。世界が大きく変わっていきますよ。
 他にも強度や耐熱性、耐腐食性に優れたPPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂やインフラ関連、防護衣料、防災製品などに使われているアラミド繊維などの素材がありますが、保有している素材を複合化して提供することができると、我々の強みが発揮されると思っています。

 多様な事業をやっている場合、コングロマリット・ディスカウントという形で、会社に対する評価、株価などが下がる傾向があるようですが、そうした声、評価をどのように見ておられますか。
 私自身、直接言われたことはありませんが、そういう声もあるようですね。昔は会社の安定のため、多角化経営のほうが「いいポートフォリオだね」と評価されましたが、昨今は「ポートフォリオは私たちがつくるので、あなたたちはスペシャリストになってください」などと言われる投資家もいらっしゃる。それに対し、正直なところ、少し違和感を感じています。
 私たちは中長期的な視点で経営しているのであって、いまやっている事業が花開くのは10年後かもしれません。いつ足元をすくわれるようなことが起こるかわかりません。そういう意味では、ある程度のポートフォリオを自分たちで持たないと大変なことになると私は考えています。コングロマリット・ディスカウントを解消していくには、一つひとつの価値が実はすごく高いということを理解していただくしかありません。
 私が残念に思うのは、長期的視点が欠けていることです。ビジネスのパートナーでもあったアメリカのデュポンの前CEO、エレン・クルマンさんが、物言う株主との対立や業績の下方修正があって退任しました。それまでデュポンは長期的視点に立った経営をしていたのに、そういうことを見極められなかった、あるいは認められなかったことに、いかがなものかと感じています。

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