ビジョンを構想し、共有しなければ
イノベーションは創出できない〈2〉

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イノベーションの創出は
組織風土の改革とセットで

 経営者の意思決定が最もわかりやすいのは、経営資源の振り分け方だと思います。日本企業の場合、既存事業に対しては資源配分に格差をつけにくいため、トップの意思はわかりにくいのですが、新規事業であれば意思が伝わりやすいですね。
西村:同感です。仮に予算が潤沢でなかったとしても、いい人材を投入してほしい。新規事業にはお金もつかないし、人材もエース級ではなかったりします。既存事業の中でもしっかり稼ぐ部門にエースが投入されているからです。本来は10年後の未来のビジネスをつくることのほうが重要な役割であるはずなので、意欲があって、ぜひやりたいと手を挙げた人たちを集めて、部門横断的に動けるような権限を与えてほしいと思います。
 機能別に縦割りされた組織や事業の壁は、それ自体が未来を阻害する要因になっています。横串で動かないと新しいビジネスはなかなか生まれないので、そこを横断できる権限を与えるとともに、既存業務とのダブルワークになってしまう部分については、これに報いる評価制度を設けてほしい。これは経営者の方々へのお願いです。

 イノベーティブなチャレンジに失敗は付き物ですが、失敗からよりよく学ぶ、あるいは失敗の確率を減らすにはどうすればいいのでしょうか。
栗原:イノベーションの創出は、やはり組織風土の改革とセットだと思います。失敗の確率を減らすのではなくて、成功する数を増やすという発想の転換が必要です。たとえばサイバーエージェントでは、新規事業が次々と生まれていますが、いま成功している事業を立ち上げた人の中には、過去に失敗した人も含まれています。失敗した人にバツ印をつけてしまうのではなく、貴重な経験を積んだ人、修羅場をくぐって脱皮した人だといった共通認識のある企業では、成功する事業が生まれやすいのです。そのためには、中途半端なチャレンジではなく、自分の人生を賭けて取り組ませる。そういった場をきちんとつくってあげることが大事です。
 失敗しない、ミスを起こさないという組織風土の会社が日本には多くあります。製造業は当然ですし、システムの世界や金融、食品もそうです。品質管理は世界一の水準ですから、やはり失敗しない人が昇進する文化が根強い面があります。ただ、そういう減点主義ではなくて、完全な加点主義の文化をつくっていかないと、イノベーションは起こりにくいのではないでしょうか。
西村:失敗というよりも、チャレンジしたこと自体を評価する枠組みが必要です。ある会社では、失敗すると減点されるから、誰もチャレンジしなかった。ところが一つの部門だけ、成功、失敗のいかんにかかわらず、チャレンジしたこと自体を評価する制度に変えたところ、新たな事業や商品が生まれたり、業務の効率や品質向上につながったりしたと聞きました。組織風土を変えていくうえで、そうした取り組みや新たな視座を持つことはたしかに必要です。組織風土を変えていかないと、どんなによく描けたビジョンや戦略であっても、実行に結び付かないと思います。
栗原:いろんな会社に組織風土について聞くと、意外と多いのが「社長の決定を課長が拒否する」という話です。特に伝統的な会社では、現場に近い、数値目標を持っているミドルマネジャーの権限が強く、トップダウンでありながら、ねじれが生じているといいます。だからこそ、イノベーションも日本の場合は中間層から起こさないと、トップから起こそうとしてもはじかれてしまう。
 イノベーションは、ミドルや現場からのボトムアップで起こしたほうがいいのかもしれません。トップの仕事はビジョンと組織風土をつくって、イノベーションのための道筋をつけること。それによってモチベーションが上がった人たちに存分に活躍してもらうというのが、いま求められている姿だと思いますし、我々がコンサルティングする際に目指している形です。
西村:40代、50代のミドルマネジャーの中には、自分たちが会社を変えていかなければならないという責任感が強い人が多いと感じています。彼らにもっと任せてもいいんじゃないか、チャレンジの機会を与えてもいいんじゃないかとも思います。
栗原:一つの方法としては、旧来型のやり方にこだわる人を改革のリーダーにすることです。彼らは会社の足を引っ張ろうと思って抵抗しているわけではなく、昔ながらの勝ち方しか知らなくて、それが正解だと思っているだけなのです。彼らを改革のリーダーにすることで、そうではないことを理解してもらい、新しいベクトルにパッションを注いでもらったほうがいい。そういう人たちは影響力がありますから、状況は大きく変わってくると思います。【完】


  1. ●構成・まとめ|堀田栄治   ●撮影|加藤昌人 

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