企業再生を加速させた脱常識経営 3兆円強の公的資金を前倒しで完済

銀行業から
金融サービス業への転換〈1〉

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一日分の支店の伝票を
会議室のテーブルに山積み

 改革に反対する人はいるものですが、抵抗勢力とどう対峙したのですか。

 抵抗というか、銀行の常識にメスを入れたという点で、面白い事例があります。「改革をいろいろやって、伝票を減らしました」と報告があったが、それは5%減、10%減の改革でした。

 花王の副社長だった社外取締役の渡辺正太郎さんが「銀行の実務は手続きばかりで、文書が多すぎる」と顔を紅潮させ、支店の現場に行って、一日の伝票をすべて会議室のテーブルの上に並べさせました。山積みになっている文書を指さして「この書類を見て、少ないと思うのか」と一喝され、ぐうの根も出ませんでした。

 細谷は「りそなの常識は世間の非常識」と常に話していました。社外取締役も現場に足を運び、「君たちのやっていることが、いかに現実離れしているか」と、実務の領域に入って銀行界の非常識をわかりやすく説明する。実態をリアルに見せられて、少しずつ理解していきました。財務部長だった私もいろいろ指摘され、血祭りに上げられた一人です。

 大変だったですよ。管理会計ができていないと怒られる。この事業の収益性はどうなっているのかと問われて、きちんと説明できない。銀行は現金と帳簿の1円の違いにも厳密ですが、収益面ではどんぶり勘定なところが多い。巨大なITシステムで業務が動いているので、コストが、この事業、この商品にどれだけかかっているのか、わかりづらい。

 コストと収益をハッキリさせよ、という指摘は社外取締役からですか。

 鉄道事業出身の細谷も、銀行業のコストと収益を明確にできない事情を理解して、同情してくれまして。鉄道でも、常磐線のコストと収益を明確に出せと言われても、線路はつながっているし、運用も常磐線だけでやっているわけではないので、簡単には出せない。

だけど、社外取締役の指摘は立ち止まって考えさせることにつながり、大いに役に立ちました。しつこく、こだわるという姿勢が、経営者には重要だと学びました。どうしてこうなるのか、どうしてこうなるのか、どうしてこうなるのか。トヨタの「なぜ」を5回繰り返せという手法がありますよね。

 トヨタ自動車工業の副社長だった大野耐一さんは『トヨタ生産方式』(ダイヤモンド社)という著書で、「一つの事象に対して、5回の『なぜ』を自問自答することによって、ものごとの因果関係とか、その裏にひそむ本当の原因を突きとめることができる」と書いています。

 生産現場で発生した問題の原因を究明するため、「なぜ」を何度も繰り返して問題の真因に迫ろうという手法ですが、あらゆる職場、経営の現場で適用できる考え方です。トヨタ出身の社外取締役、井上輝一さんからの質問は、まさにトヨタのファイブ・ホワイでした。

 こうした改革により、りそなの財務状況はどのように変わったのですか。

 2003年9月末の不良債権残高は3兆2190億円、不良債権比率は11・9%でしたが、2005年3月末は9188億円、3・4%に減少しました。

 ノンバンク事業からの撤退、証券子会社の売却など、国内関連会社は2003年3月期の50社から、2年で11社に整理しました。また持ち合いなどの株式も売却して、保有株式残高は1兆3970億円から3978億円へ、約1兆円圧縮しました。

 年収の3割カット、4600人の人員整理、システム開発費の削減、店舗の統廃合などのリストラで、2003年3月期に66・3%だった営業経費率は2年後、50%に下がりました。営業経費は人件費、店舗、広告、システム関連などの物件費など、銀行が業務活動を行ううえで必要な経費で、これを業務粗利益で割ったものが営業経費率です。

*つづき(第2回)はこちらです


●聞き手|前原利行/岩崎卓也(ダイヤモンドクォータリー編集部)
●構成・まとめ|前原利行(ダイヤモンドクォータリー編集部) ●撮影|中川道夫


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