「ねじガール」が会社経営を変えた!現場主導の変革をマネジメントはどうサポートすべきか

連載:働き方フロンティア 【第6回】

「ねじガール」が会社経営を変えた!
現場主導の変革をマネジメントはどうサポートすべきか

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失敗してもいいから
まずはやってみる

アデコ:ねじガールによって、生産性が上がった、あるいは売り上げや利益が増えたといったことを数字で示すことは可能でしょうか。

柿澤:ねじガールの直接的な影響として示すのは難しいですが、彼女たちが工場で働くようになって不良廃棄率が半減しましたし、金型費も年間で1000万円ほど削減されました。ただ、私は会社が成長しているかどうかを数字や指標だけで判断しようとは思っていません。もちろん、営利企業である以上は、いかに利益につながるかという視点で施策や行動を決定していかなければなりませんが、今月あるいは今年でどれくらいの利益が上がるかという時間軸だけで、会社の状況は把握できません。むしろ、会社の持続的な成長を考えれば、常に利益を上げ続ける必要はないのではないかと私は考えています。中小企業のオーナーだから言えることなのかもしれませんが、会社の基盤を強固にするためにやらなければならないことがあって、ある期間そこに注力しなければならないのなら、その間はあえて数字は重視しない。そんな判断があってもいいと思っています。

 

アデコ:女性の活躍を成功体験として、今後、ダイバーシティー(多様性)として外国人や障がい者の雇用を推進するといったことは考えられていますか。

柿澤:ねじガールによって誰もが働ける環境づくりが進んだことで、高齢になっても嘱託で働く人が増えていますし、知的障がいを持った社員も既に働いています。ただ、「ダイバーシティーを実現しなければ」と強く考えているわけではありません。女性活躍にしても障がい者雇用にしても、できるかできないかを検討する前に、「まずはやってみよう」という姿勢で「どうすればやれるか」を考えることが重要ではないかと思っています。

 今、さまざまな団体やメディアで当社の取り組みを評価いただいていますが、そうした姿勢で対応してきた結果が時代の流れに合っていたというふうに感じています。

アデコ:最後に、働き方改革に最も必要なことは何だと思われますか。

柿澤:「改革する」。そう経営者が決断することが何より重要だと思います。決断した以上、社員が働きやすくなるために、取りあえずいいと思うことをやってみる。失敗してもいいからやってみる──。そんなやり方が、当社では功を奏してきました。もちろん、会社の規模が小さいからうまくいったという側面はありますが、大きいからできないというものでもないと思います。

 以前の中小企業の社長のなかには少なからず、「自分が社員たちを食わせてやっている」と考えていた人がいたのではないでしょうか。しかしそれは大きな間違いであって、実際には「社員が働いてくれているから経営が成り立つ」のだと実感しています。これに気付けたのは当社が中小企業だからです。社員たちを働きやすくすることは、経営を良くすることと直結するわけです。

アデコ:大企業でも、小さなところから始められることはいくらでもありそうです。今日はありがとうございました。

インタビューの報告を受けて:川崎健一郎

アデコ 代表取締役社長
川崎健一郎
 KENICHIRO KAWASAKI
1976年、東京都生まれ。青山学院大学理工学部を卒業後、ベンチャーセーフネット(現・VSN)に入社。2003年、事業部長としてIT事業部を立ち上げる。常務取締役、専務取締役を経て、2010年3月、VSNの代表取締役社長&CEOに就任。2012年、同社がアデコグループに入り、日本法人の取締役に就任。2014年には現職に就任。VSN代表取締役社長&CEOを兼任している。

 働き方改革について、中小企業でよく聞かれることは「人数が少ない会社はギリギリでやっているので働き方改革なんて無理」という声だ。しかし、柿澤社長は「1人の生産性が経営に直結するので人数の少ない会社こそ働きやすい環境にしなければならない」と語っている。

 どちらを選ぶかという視点では、インタビューにもある通り時間軸の捉え方の問題だろう。短期的に利益を捉えれば、前者が選ばれ、中長期的に見れば後者となる。しかし、中小企業の本質として柿澤社長の言葉に異を唱える経営者はいないはずだ。つまりは、どういうやり方なら進められるかという方法が問題なのである。

 先の伊藤忠商事の事例(第5回)で、改革を進めるための周囲の説得方法として「うまくいかなければやめる」という姿勢に注目したが、これは興津螺旋の取り組みにもつながるもので、中小企業でこそ最適な進め方といえる。良いか悪いか、悪いのはどの部分か、規模が小さければこの答えを得やすく、方向転換のスピードも速い。間違いに気付いたときの軌道修正を極小化できるこの改革の進め方は、中小企業の働き方改革に大きな可能性を示してくれる。

 製造業では3Dプリンターを中心としたデジタルファブリケーションの進展により、開発の進め方として「ラピッドプロトタイピング」に注目が集まっている。設計段階で精緻な作り込みを行うのではなく、スクラップ・アンド・ビルドを繰り返しながら、完璧なものに仕上げていくという方法だ。顧客の動きが捉えにくくなっている現在、有効とされるものづくりの手法だが、働き方改革にも同じことがいえるのかもしれない。

 働く側も雇う側も経験したことのない改革に取り組もうとしている。そしてその改革は永遠に続くものである。ならば、マネジメントが率先して「まずはやってみよう」という姿勢で取り組むことが、結果的に改革のスピードと精度を上げることにつながるのではないか。

 現場と共に歩みを進めていく取り組みなら「朝令暮改」もありだ。重要なことは「改革する」という意思決定に朝令暮改を許さないことである。


●構成・執筆|川崎健一郎(アデコ 代表取締役) 


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